雪が舞う日もあった3月の世界選手権(カナダ・モントリオール)。フリーの6分間練習に現れた千葉百音選手は観客席の方を見て、にっこりと笑った。
ショートプログラム(SP)ではジャンプが抜けて、13位と出遅れた。それから中1日、どんな雰囲気でフリーに臨むのか。気になってレンズを向けると、その笑顔が飛び込んできた。気持ちをうまく切り替えられたようだ。本番前の様子にほっとしつつ、シニアに本格参戦したシーズンで一歩一歩強くなってきた道のりに思いをはせた。
昨年10月のスケートアメリカのSPでは、会場の手拍子に乗って「黒い瞳」を初々しく披露し、5位スタート。しかし、翌日のフリーでは一転。ジャンプやスピンのミスが続き、波に乗れないまま演技を終えた。ほろ苦いグランプリシリーズのデビュー戦。肩を落としてリンクを引き揚げる横顔が印象に残っている。
続くフランス杯でも苦杯をなめたが、全日本選手権は堂々の演技で2位、4大陸選手権で主要国際大会を初制覇。序盤の失敗を糧に、着々とステップアップする姿をファインダー越しに見てきた。
そして迎えた初めての世界選手権。フリーでSPからの巻き返しを狙った。前半のジャンプで手をついたが、その後はしっかり滑り切り、7位まで順位を上げた。「フリーは一つくらい失敗しても崩れない自信がありました」。競技翌日に話を聞くと、そう教えてくれた。そして、「気持ちを強く持たなきゃと思って」とも。
この数カ月、相当な努力を積んできたのだろう。世界選手権での演技を「間違いなく今までで一番緊張した」と話す一方で、その努力が自信となり、競技直前に笑顔を見せる少しの余裕につながったのだと思う。
一夜明け取材では、優勝した坂本花織選手らを引き合いに、「強さ」を口にした千葉選手。その片りんを感じながら、春の東京へと戻った。【猪飼健史】
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