<著者は語る>
 昨年3月に行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で世界一に輝いた野球の日本代表・侍ジャパン。本書は監督を務めた栗山英樹さん(63)が、熱戦を振り返りながら、自らの考え方・指導哲学を記したものが本書『信じ切る力』(講談社・1760円)である。  「なぜ、我々はあの戦いで勝てたのか。ひと言でいうなら、信じ切る力があったからだと思うんです」  戦術ではなく、心の動きや物事の捉え方について書かれているのが、ポイントだ。不調の村上宗隆選手はなぜ、準決勝のメキシコ戦でサヨナラ安打を打てたのか。どうして、源田壮亮選手を骨折後も起用したのか。実はそこに「信じ切る力」が介在したという。  「本当に不思議なのですが、送り出す側が心から信じて送り出さないと、その人の力は発揮されにくい。目に見えないものが結果に結び付く。それをあらためて感じた大会でした」

著書「信じ切る力」について話す栗山英樹さん

 勝負事は、自分の持っている力をどれだけ出せるかが鍵になる。しかし、重圧などが原因で力を発揮できなくなるときがある。その際、相手の迷いを消し去るのが、表題の力だ。  「おまえができないと思っているだけだ。おまえより、俺が信じてどうするんだ」。真摯(しんし)に語りかける様子が心に染みる。他にもまな弟子・大谷翔平選手が怒った話や予告ホームランを放ったエピソードを収録。「一流選手はできるか、できないかでは考えない」の言葉にハッとさせられた。  現在は日本ハムのCBO(チーフ・ベースボール・オフィサー)として球団運営と編成に携わるが、選手への愛情が変わることはない。著者は語る。「大事なのは、目の前の結果ではなく、人としてどうあるべきか」。本書は野球を通じた人生論であり、極上の自己啓発本である。(谷野哲郎) 

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