男子2回目、あん馬を終え拳を握る杉野正尭=高崎アリーナで2024年5月19日、玉城達郎撮影

体操・NHK杯 男子2回目(19日、群馬・高崎アリーナ)

杉野正尭選手(徳洲会体操クラブ)339・861点=5位 チーム貢献度でパリ五輪代表

 最後は代名詞のガッツポーズを封印し、かみ締めるように拳を握った。杉野正尭選手の最終種目、得意の鉄棒。着地でわずかに動いたが、離れ技を連発する豪快な演技で会場を魅了し、14・866点の高得点をマークした。こみ上げてきたのは3年分の思いがこもった「涙」だった。

 3年前の代表選考ではライバルに小差で及ばず、東京オリンピックの舞台に立つことはかなわなかった。

 「あそこの経験があったからこそ、と振り返って言えるように」。それまで以上に練習にも熱が入り、誠実に向き合うようになった。2022年の全日本シニア選手権の個人総合で優勝。浮上へのきっかけをつかんだかに見えたが、思わぬ落とし穴があった。

 「個人総合で行けると思ってしまって、自分の(強みの)あん馬と鉄棒という部分を見失ってしまった」。23年の全日本選手権とNHK杯では得点源だったはずの鉄棒がいずれも12~13点台。得意種目で得点を伸ばすことができず、個人総合でも中位にとどまった。

 パリ五輪の代表争いが本格化する前に、所属する徳洲会の米田功監督らとも何度も話し合った。足りないのは「考え方や競技に向かう姿勢」。代表入りを一番に考えて「あん馬、鉄棒で点数を稼ぐことがベスト。個人総合の順位に関しては意識せずにやろう」と覚悟を決めた。

 その後は日ごろの練習からあん馬、鉄棒の2種目に特に注力。「あん馬の上にいる時間は(誰よりも)長いと思うし、鉄棒も世界一の離れ技を持っている自信がある」。体操選手として生きていく道が定まった。

パリ五輪出場を決めた(右から)杉野正尭、谷川航、萱和磨、岡慎之助、橋本大輝=高崎アリーナで2024年5月19日、玉城達郎撮影

 迎えた4月の五輪代表2次選考会を兼ねる全日本選手権の決勝ではあん馬と鉄棒で15点台と高得点をマーク。今大会も17日の1回目はあん馬で15・100点、鉄棒で14・766点。他の種目でミスが出ても「自分は個人総合の選手ではない」と割り切り、この2種目だけは外さなかった。

 運命の19日の2回目。最初の種目の床運動から好演技を披露して「意識的に波に乗れた感じがある」。2種目めのあん馬ではほぼ完璧に着地まで決めて15・000点を記録し「シャー」と何度も拳を振り下ろした。さまざまな経験を重ねながら、最後に信じた「自分らしい」体操を出しきり、「3年間本当に濃かったし、長かった。けど短くも感じた。いろいろな場面が思い浮かぶ」と感慨に浸った。

 チーム貢献度での代表選手発表では水鳥寿思・男子強化本部長から「ようこそ、日本代表へ」と呼びかけられた。「身が引き締まった。必ず金メダルを取らないといけないし、それが僕らの使命。歓迎の意味もあるけど、『頼んだぞ』っていう期待も乗っている感じがした」

 東京五輪の団体総合は0・103点差で銀メダル。わずかな点差の重みを知る杉野選手の存在は、パリでも必ず日本代表の力になる。【角田直哉】

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。