初参戦のサッカーJ1で奮闘する町田のホームスタジアムには「天空の城」の異名がある。駅から遠い丘の上にある立地の悪さをやゆされたのが始まりだが、クラブは弱みを逆手にとったPRを展開。世界観を徹底的に作り込むやり方は、プロスポーツクラブ経営で参考になりそうだ。(加藤健太)

◆リーグ最長、最寄り駅から徒歩1時間の「秘境」

 町田GIONスタジアムはJR町田駅から北に約6キロの位置にあり、最寄り駅の小田急線鶴川駅からは直行バスで20分。徒歩で要する1時間はJ1の20クラブで最も長い。木々に囲まれた小道を進まなければならず、他クラブのサポーターから「登山」「秘境」と、からかわれてきた。  嘆いてもスタジアムは動かせない。ならば魅力的に見せようと、クラブはスタジアムを地域のシンボルの「城」に見立てたプロジェクトを2021年にスタート。「天空の城」と名付け、RPGやアニメに似せた世界観をつくり始めた。Jクラブで他に例がない取り組みという。

◆「普通のやり方では勝てない」世界観を作り込み

試合前に笑顔を見せる町田の岡田敏郎運営・広報部長(右)=東京都町田市で

 「逆手に取っちゃえばいいじゃん」。プロデューサーで運営・広報部長の岡田敏郎さんは天空の城と冷やかされていることを知り、会議でこう発言した。  過去にJ2草津で試合運営に長く携わり、見せ方のノウハウは分かる。神奈川県と隣接する地域の東京のクラブとして「周りにたくさんのJクラブがある。普通のやり方では勝てない」。町田でしかできないことを考え、武器として磨いた。  3日のJ1柏戦。来場者を迎えるレンガ調の門からスモークが噴き出し、子どもたちが「勇者になった気分」と楽しそうに通っていた。異国情緒あるBGMが流れ、グッズ売り場には「武器・防具屋」の看板。試合開始前のピッチでは、マントを羽織った男性がサッカーゴールより大きな旗を振って駆け回り、選手入場を盛り上げた。

「武器・防具屋」と名前が付いたグッズショップ

 昨季からチームの指揮を執る黒田監督が掲げるサッカーと同じく、岡田さんのこだわりは「いかに徹底するか」。武器・防具屋でユニホームを購入した客には、受け渡し時に「今すぐ装備しますか」と声をかけるマニュアルがある。売り場などの派遣スタッフにもベージュのジャンパーを用意して雰囲気を統一。取材に来るメディアへの来場案内の文言も「ご来城は~」とぬかりない。

◆アクセス悪さ、乗り越えて来てくれるサポーターづくり

旗を振るスタッフ

 東京Vのフロントで集客の経験もある城西大経営学部の佐々木達也教授は「クラブには試合以外の部分で客を満足させるサービスが求められる」と指摘。「それが、アクセスの悪さを乗り越えてでも駆け付けてくれるコアなサポーターづくりにつながっていく」と話す。  プロジェクトに懸ける思いを、岡田さんは「チームの成績にかかわらず、行きたいと思ってもらえることが大切。クラブが盛り上がって地域に恩返しをしたい」。地元ファン・サポーターとの絆を深めるべく、地道に「築城」を続ける。 

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