「こうのとりのゆりかご」の課題などについて話す蓮田健院長(右)=熊本市西区の慈恵病院で2024年5月7日午後1時0分、中村敦茂撮影
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 親が育てられない乳幼児を匿名で受け入れる、全国初の赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」が熊本市の慈恵病院に開設されて10日で17年となった。これまで多くの小さな命が保護された一方、子どもの成長に伴う出自情報の開示など新たな課題も持ち上がっている。同病院の蓮田健(たけし)院長が記者会見し現状を語った。

赤ちゃんは順調 でも母親は…

 ゆりかごに預けられた乳幼児は2023年度までで計170人超、年平均では10人ほど。蓮田氏は「多くの赤ちゃんが無事にすくすく育っている。病院にいる間に大きな問題は発生していない」と運用状況を説明した。

「こうのとりのゆりかご」の扉の内側。赤ちゃんの人形を使ったデモンストーレションの様子=熊本市西区の慈恵病院で2024年4月17日午後1時13分、中村敦茂撮影
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 一方、受け入れた赤ちゃんの母親に危険な孤立出産のケースが後を絶たないという。「遺棄や殺人に至った状況と似ており、一歩間違えば事件につながった可能性もある」と危機感を強める。このため慈恵病院では、病院以外に身元を明かさずに産める「内密出産」のシステムを21年12月に開始したが自宅出産して連れてくるケースは変わらず発生しているという。

出自情報の開示「混乱が始まっている」

 17年前に預かった赤ちゃんは17歳になることなどから、本人への出自情報の開示をどうするかが問題として浮上。養育者が本人にどう説明するか、制度として整備されていないことから「混乱が始まっている」という。

 出自情報は子どもにとってネガティブな内容の場合もある。慈恵病院と熊本市は専門家による検討会を共同設置して議論を進めており、24年内に報告書をまとめるという。蓮田氏は「どう対応するか答えを持ち合わせていない。検討会の方々にも力添えいただきたい。将来的には国に情報開示のための専門家の機関をつくってほしい」と希望する。

まだまだ「長い道のり」

 また、ゆりかごを出た後の処遇については、「変えなければいけない」と提言。一定期間を経て乳児院に移るのが通常の流れだが、蓮田氏は、乳児院の職員が少なく、異動もあるため愛情の奪い合いや親役との別れが発生するという。「早期の里親や特別養子縁組の実現が必要」と訴えた。

「こうのとりのゆりかご」の課題などを話す蓮田健院長=熊本市西区の慈恵病院で2024年5月7日午後1時0分、中村敦茂撮影
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 赤ちゃんポストへの社会の理解については「(開設)当時に比べると理解と支援の声が大きくなったが、まだ預けられる人数が少ないためだ」と分析。しかし「例えば東京で赤ちゃんポストができて年間30人、50人と預けられたり、外国人の子どもが預けられたりしたときに日本社会は許容できるのか」と理解醸成は途上との認識を示した。

 医療機関で全国2例目の赤ちゃんポストはまだない。「母親が自分で頑張るのが当然と思われている日本の社会で、理解を引き出すのが難しい。実際やるとなれば今度は行政、政治家に法的なよりどころをつくってもらわねばならない。長い道のりだと思う」と指摘した。【中村敦茂】

赤ちゃんポスト

慈恵病院の一角に設けられた「こうのとりのゆりかご」とデモンストレーションをするスタッフら=熊本市西区で2024年4月17日午後1時9分、中村敦茂撮影
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 親が育てられない子供を匿名で受け入れる設備。ドイツの例を参考に07年5月10日に熊本市の慈恵病院が「こうのとりのゆりかご」の名称で設置した。病院の一角にある扉の奥に保温設備付きの保育器が設置され、子供が置かれると音楽が鳴り、職員が駆けつける仕組みになっている。

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