札幌地裁=岸川弘明撮影

 取引先企業の社長から罵声や不当な要求などのカスタマーハラスメント(カスハラ)を受け、従業員が抑うつ状態に追い込まれたのは業務遂行権の侵害にあたるなどとして、東京都の住宅設備販売会社が今春、取引先の2社に計1100万円の賠償を求める訴訟を札幌地裁に起こした。原告の代理人弁護士によると、法人間でのカスハラ訴訟は全国的に珍しい。提訴は4月14日付。

 原告は全国で住宅設備販売などを手がける「橋本総業」で、被告は札幌市の資材販売会社「扶桑物産」と関連会社「釧路扶桑物産」(北海道釧路市)。

 訴状によると、2023年3月27日、橋本総業の北海道エリア責任者は釧路扶桑物産の創立50周年を祝うため同社を訪問したが、桑物産社長も兼務する同社社長は、随行した橋本総業の従業員に対し「お前からアポイントはもらっていない」「お前はそんなに偉いのか? 何様だ」などと約2時間にわたり怒鳴り続けた。

 随行者は翌日から休職し、医師から抑うつ状態と診断された。社長は以前から橋本総業の社員に空港への出迎えやシミュレーションゴルフの保守など契約外の対応を求めており、通常業務が滞るなど支障が生じていたとしている。

 橋本総業は同年4月14日、書面で改善を求めたが、社長は応じなかった。それどころか執拗(しつよう)に撤回と謝罪を求め、橋本総業の取引先に虚偽の情報を流すなどして同社の信用失墜や混乱を招いたと主張している。

 9日に札幌市内で記者会見した橋本総業によると、相手方の2社は道全体の売り上げの16%を占める重要顧客だった。現在の取引額は半分程度に減ったが、「従業員の健康と安全、適正な取引を実現するためには訴訟以外に手がなかった」と説明した。

 扶桑物産と釧路扶桑物産の代理人弁護士は「係争中のため、主張は裁判手続きの中で明らかにしていく」とコメントしている。【伊藤遥】

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