水俣病の患者・被害者らと懇談した際に、環境省職員が被害者側のマイクの音を発言中に切った問題を受けて謝罪する伊藤信太郎環境相(中央)=熊本県水俣市で2024年5月8日午後5時14分、平川義之撮影

 環境省職員が水俣病被害者側の発言中にマイクの音を切った問題で、林芳正官房長官が陳謝、伊藤信太郎環境相は熊本県水俣市を再訪し、被害者らに直接謝罪するという事態に追い込まれた。

水俣病患者らでつくる団体との懇談で、水俣病患者連合の松崎重光副会長(右手前)の話を聞く伊藤信太郎環境相(左奥)=熊本県水俣市で2024年5月1日午後4時34分、吉田航太撮影

 1日の患者や被害者らとの懇談後、伊藤氏は記者会見で職員がマイクを切ったことを「認識していない」などと発言した。大型連休中にこの問題に関する報道が相次いでいたが、事務方が伊藤氏にマイクを意図的に切ったことを正式に報告したのは、連休が明けた7日午前だった。

 伊藤氏は7日昼、懇談の場で司会をしていた同省特殊疾病対策室の木内哲平室長に対し、現地に謝罪に行くよう指示。木内室長は同日夕方、報道機関向けの説明の場で職員だけで赴くと説明していた。

環境省職員が水俣病被害者側の発言中にマイクの音を切った問題を受けて、発言していた水俣病患者連合の松崎重光副会長(左)に頭を下げる伊藤信太郎環境相=熊本県水俣市で2024年5月8日午後6時41分、平川義之撮影

 ところが同日夜、一転して伊藤氏も謝罪に行くことを決定。8日の報道陣の取材に対し「私もいろいろ日程があるので、昨日(7日)急に行くわけにもいかなかった」と釈明し、涙ぐみながら謝罪した。環境省幹部の一人は「水俣病は環境省(旧環境庁)が発足した原点。重く受け止めたのではないか」と話す。懇談の場での職員の行為には「話している最中にマイクをいきなり切るなんて普通はしない」(環境省職員)など、省内からも疑問の声が上がっている。

 木内室長によると、懇談の場では各参加団体に3分ずつの持ち時間があり、3分を過ぎた場合にマイクを切るという運用方針を事前に決めていた。当初は会場で周知する予定だったというが、木内室長は「(メモを)読み飛ばしてしまった」と話す。昨年度も同じ運用方針だったが、実際はマイクを切ることはなかった。

水俣病被害者側の発言の途中でマイクを切ったことについて謝罪する伊藤信太郎環境相=東京都千代田区で2024年5月8日午後0時9分、山口智撮影

 8日の衆院内閣委員会でも環境省は釈明に追われた。

 同省の神ノ田昌博環境保健部長は質疑で、発言が制止された経緯について「懇談ではこれまでも各関係団体の発言時間に大きな格差が生じたり、大臣から回答する時間を十分確保できなかったりという進行管理上の問題が生じていた」としたうえで、「このため従前よりマイクの音を切るという対応も含め、環境省の事務方で対応例を準備してきた」と答弁した。

 林官房長官は質疑で「関係者の方々を不快な気持ちにさせる不適切な対応だった」としたうえで、「政府としても、私からもおわびを申し上げたい」と陳謝した。この問題について質問した立憲民主党の中谷一馬氏は「音声が出ないようにして発言をさえぎるという行動は、岸田政権の『聞く力』のなさを体現する大変残念な出来事だ」と批判した。

 一方、立憲は同日、国会内で環境省の大森恵子官房審議官らへのヒアリングを実施した。出席議員からはマイクを切る運用をやめるよう要請されたが「限られた時間の中でどのようにすればみなさんの意見がうかがえるか、知恵を出して考えていきたい」と述べるにとどめた。【山口智、鈴木悟、田辺佑介】

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