修復され、可動状態になった1912年式T型フォード。ハンドルの手前に見えるのは、アルコールランプの「車幅灯」(徳島短期工業大学提供)

 クラシックカーとしては名車中の名車とされる「T型フォード」。流れ作業による大量生産で車の大衆化をもたらし、20世紀の産業史に特筆される。一方、写真などで見たことがある人はいても、「乗ったことある?」と尋ねられて、「はい」と答える人はほとんどいないだろう。自らハンドルを握るチャンスが目の前にあれば、あなたならどうする?

 T型フォードは、「自動車王」と称されたヘンリー・フォード(1863~1947年)が創業した米国の自動車メーカー「フォードモーター」が開発した。1908~27年に1500万台以上が生産され、米国にモータリゼーション(車社会化)とガソリン自動車社会をもたらしたとされる。

修復され、可動状態になった1912年式T型フォード。ハンドルを切った状態になっている(徳島工業短期大学提供)

 生産終了から100年近くたち、動態保存されている車体は極めて少ない。だが、一度は動かなくなったものの、関係者の尽力で走行できるようになった1台が徳島工業短期大学(徳島県板野町)にある1912年式T型フォードだ。全長3メートル41センチ6ミリ、全幅1メートル42センチ2ミリだから、現代の自動車で言えば軽乗用車ぐらいのサイズ。しかし、2896㏄と、今の感覚からすればコンパクトな車体に不釣り合いなほど大きな排気量の4気筒エンジンを搭載している。

 実はこれ、徳島県でフォード社の正規代理店を営んでいた男性から2020年に寄贈された車体だった。当時は動かなかったものの、自動車整備士を育成している同大学が創立50周年を迎えた23年、クラウドファンディングで資金約190万円を集め、学生15人のチームが約3カ月間かけて修復した。修復の際、劣化していた燃料ホースは現在のものに替えたほか、バイクのタイヤチューブを代用するなど工夫した。

修復され、可動状態になった1912年式T型フォードの後部(徳島工業短期大学提供)

 そんなT型フォードを運転してみたいという人も少なくないだろう。大学のある板野町が募る「ふるさと納税」の返礼品としてそれが実現することになった。早ければ5月中旬にも、ふるさと納税サイトの「さとふる」で取り扱いが始まる。寄付額12万円と8万円の2コースあり、12万円では、寄付者を含む2人がクランクハンドルを使ったエンジン始動方法などを学んだ後、キャンパス内でハンドルを握ることが可能だ。公道には出ないものの、普通自動車免許が必要。一方、8万円のコースは、寄付者を含む5人が大学職員が運転するT型フォードに同乗できる。

 可能な限り製造当時の状態を再現して修復することを優先したため、アクセルはハンドル横に付いているレバーを上下させるなど、現在の自動車の運転とはだいぶ勝手が異なる。運転方法の注意点については、事前に大学職員が教えてくれる。ふるさと納税の返礼品は、納税額に応じた地場産品やサービスの提供が一般的だが、T型フォードの運転はそもそも代金を支払っても体験できず、ユニークな返礼品として話題を呼びそうだ。

 同大学の担当者は「大学が立地する板野町への貢献と同時に、(T型フォードが)再び走れるまでに修復した大学の技術力の高さも知ってほしい」と狙いを語った。【植松晃一】

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