最後の噴火から300年以上がたち、「いつ噴火してもおかしくない」と言われる富士山。山梨県は全国の自治体で唯一、火山の専門知識を有する「火山防災職」を採用し、来たる災害に備えている。2023年に同職で入庁した県火山防災対策室の古屋海砂さん(28)に話を聞いた。【野田樹】
――入庁してもうすぐ2年ですが、現在の主な仕事は。
◆21年に富士山の火山ハザードマップが改定され、23年3月に山梨、神奈川、静岡の3県や国でつくる協議会が「富士山火山避難基本計画」を見直しました。これらに基づき、県が24年3月に地域防災計画を修正し、現在は市町村ごとに地域防災計画の改定を進めているタイミングです。
火山の噴火は、水害などと比べるとハザードマップが非常に複雑になっています。溶岩流や火砕流、噴石といったさまざまな現象が起き得るので、どのように避難すればいいのかを、市町村と一緒に考えています。このほかにも、避難訓練や普及啓発イベントの内容の検討などをしています。
――重点的に取り組んでいることは。
◆21年のハザードマップの改定によって、市町村が避難促進施設に指定する集客施設や社会福祉施設が増える見込みです。これらの施設は、避難誘導の手順などをまとめた避難確保計画をつくらなければいけません。計画の策定がスムーズに進むように、実務を担う市町村への支援を強化しなければいけないと感じています。
――入庁前はどのような研究に携わりましたか。
◆大学3年から約4年間、県富士山科学研究所と共同で富士北麓(ほくろく)地域の火山灰などの層序(地層が重なる順序)を調べました。自衛隊の敷地などが含まれ、これまで詳細な調査がされていなかった地域について、精度の高い層序を確立することができました。層序から噴火の回数などを推定できますが、100メートル先の火山灰の分布が異なることもあり、小規模な噴火がかなり多かったことが分かりました。
――火山防災職に手を挙げた理由は。
◆富士河口湖町の出身ですが、学生の時は地元で研究してきたことを生かせるような仕事がありませんでした。大学院の修士課程を修了し、建設コンサルタント会社に就職した後、県が募集していると聞いて応募しました。学んできたことが直結した仕事で、地元に役立つのはうれしいですし、住民が富士山をどのように捉えているかも理解しています。住民と行政、研究者の橋渡し役になれればと考えています。
――噴火に備えるために必要なことは。
◆正しく恐れることが重要です。噴火すれば被害をもたらしますが、普段は私たちに多くの恵みを与えてくれます。富士山の恵みを享受しながら、噴火時には気をつければいい。その時に備えられるように意識しておきましょう。また、富士山の噴火について真偽不明の情報も流れています。気象庁や市町村の公的な情報を収集してほしいです。
古屋海砂(ふるや・みさ)さん
1996年、山梨県富士河口湖町生まれ。富士山は実家の窓からも見え、小さな頃から身近な存在。21年に茨城大大学院の修士課程(地球環境科学コース)を修了。専門は火山地質学、岩石学。火山防災職は1人だけで、県は今年度、2人目の採用を目指している。
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