7月11日の全館営業再開に向けて、保存修理工事中の道後温泉本館=松山市で2024年4月1日、山中宏之撮影

 日本三古泉の一つに数えられ、夏目漱石や正岡子規も通ったとされる松山市の国重要文化財「道後温泉本館」が7月11日、約5年半ぶりに全館で営業を再開する。4月10日には改築130年の節目を迎え、新たな船出への期待は大きい。貸し切り休憩室の新設などサービス面の充実を図る一方、物価高騰や人件費の上昇を受け、入浴料金などが約1・5倍に値上げされる。【山中宏之】

 本館は道後温泉を発展させた伊佐庭如矢(いさにわゆきや)・道後湯之町長が1894年に老朽化した湯屋を改築した神の湯本館棟に加え、皇室専用として整備された又新殿(ゆうしんでん)・霊(たま)の湯棟▽南棟▽玄関棟――からなる。浴場はメインの「神の湯」と「霊の湯」の二つ。アルカリ性単純泉で肌に優しく滑らかなのが特徴で、くみ上げた約20~55度の18本の源泉を混ぜて42度ほどに調整した源泉掛け流しが売りだ。

部分営業をしながら保存修理工事が進む道後温泉本館。工事用フェンスが張られている=松山市で2024年1月4日、山中宏之撮影

 保存修理工事は2019年1月から行われている。建物全体が文化財のため「当時のまま残す」ことを前提に、瓦など元の建材を生かしながら配管の更新や耐震補強が進められてきた。21年には緑青に変化していた「又新殿・霊の湯棟」の銅板屋根の全面がふき替えられ、約半世紀ぶりに銅(あかがね)色に輝いた。

 全館営業再開の目玉の一つが、3階に新たに設けられる約22・5平方メートル(12・5畳)と約34平方メートル(19畳)の二つの貸し切り休憩室だ。市の担当者は、具体的なサービスは検討中としつつ「インバウンド(訪日外国人)や団体客が増えることを期待している。(国重文で)ぜいたくな時間を体感してほしい」と話す。また、簡易な手洗い場しかなかった脱衣室に新たに洗面台を設置し、アメニティー類を充実させるなど利用者のニーズに応える。

価値に見合った料金サービスに

 23年10月に開催された観光業者らでつくる審議会で示された資料によると、21年度の入浴客数は約11万5000人。新型コロナウイルスの影響もあるが、工事前だった17年度の約80万2000人から6分の1以下に落ち込んだ。市の推計では、全館営業再開で25年度に70万人超と大きく回復するものの、28年度には70万人を割ると見込む。その後も人口減少などの影響で徐々に減るとみている。

 市条例で定められている現行の入浴料金(460円)で将来の収支見込みを計算すると、25~29年度は約7000万~1億7000万円の赤字が毎年続く。昨今の物価高騰や将来的に入浴客数の減少が予想されることなどから、市は全館営業再開と同時に700円に上げることを決めた。値上げは消費税率引き上げなどに伴うものを除くと05年7月以来。市の担当者は「持続可能な経営のため、国の重要文化財に入浴できるという価値に見合った料金とサービスになるよう見直した」と理解を求めた。

 市民や観光客はどう受け止めているのか。

 松山市の会社員、亀田幸憲さん(66)は「ちょっと上がりすぎかな」と率直に語る。一方で「多少高くても観光客は来ると思う。耐震補強もされたので、全国のみなさんに安心して来てもらいたい」と話した。観光で初めて訪れたという山梨県富士吉田市の公務員、渡辺和久さん(63)は「これほど文化的価値のあるものを今後も残していくためには(値上げは)受け入れるべきだと思う。もう少し上げてもいいのでは」と好意的だ。

工事フェンスに囲われた道後温泉本館西側の玄関棟=松山市で2024年1月24日、山中宏之撮影

 源泉などを管理する道後温泉事務所の杉村幸紀所長は「国内外に広く道後温泉の素晴らしさをPRしていきたい。お客様に寄り添ったサービスを提供できるようにしっかりと準備していく」と話している。

道後温泉本館の入浴料や各休憩室の利用料金

            旧料金  新料金

①神の湯入浴のみ    460   700

②神の湯+広間     860   1300

③神の湯+霊の湯+広間 1280   2000

④神の湯+霊の湯+個室 1580   2500

⑤又新殿観覧のみ    270   500

⑥貸し切り部屋(12・5畳) ―― 3000(1組当たり、90分制)

⑦貸し切り部屋(19畳)  ――  6000(同上)

※単位は円。いずれも大人(12歳以上)料金。⑥⑦は別途入浴料がかかる。

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