船舶事業からの撤退を発表するJR九州の古宮洋二社長(手前)とJR九州高速船の大羽健司社長=福岡市博多区で2024年12月23日午後3時15分、金澤稔撮影

 JR九州グループが三十余年育てた日韓航路は、期待をかけた新しい大型高速船で浸水隠し問題を起こした末、廃止の幕切れに至った。福岡市と韓国第2の都市・釜山の交流を長く支えただけに、関係者は複雑な思いで決定を受け止めた。

 JR九州グループの日韓航路は、JR九州の船舶事業部が1991年に就航させた高速船「ビートル二世」に始まる。片道約210キロを約3時間で結び、「韓流ブーム」に乗った2004年度は年間最多の35万人が利用。05年に分社化したJR九州高速船が運航を引き継ぎ、リーマン・ショックや日韓関係の悪化、新型コロナウイルス禍など社会情勢の影響を受けながら、22年には大型高速船「クイーンビートル(QB)」を投入。23年度までに延べ600万人以上が往来した。

 JR九州初代社長で、航路開設に尽力した石井幸孝さん(92)は、航路が福岡市を含む福岡都市圏と釜山の交流を促し、国境を超えた「隣町感覚を育んだ」と振り返り、「創始者の一員として極めて残念」と語った。また、就航初期の92~94年に船長を務めた西村富美雄さん(72)は「ビートルといえばJR九州の花形で、九州にとっても地元にとってもインパクトのある事業だった。自分のやってきた仕事が地図から消えてしまうのはむなしい」とこぼした。

 福岡市は釜山市と89年に行政交流都市、07年に姉妹都市を締結した。福岡市の高島宗一郎市長はJR九州の決定を受け、「30年以上、人的交流の一翼を担ってきた航路。廃止は社会的にも極めて大きな影響があると思います」とコメント。また、駐福岡韓国総領事館の金信権(キムシンコン)領事は「30年以上続いた日本と韓国の懸け橋がなくなるのは本当に残念。今後どういう影響が出るか分からないところではあるが心配だ」と話した。

 一方、福岡―釜山間は空路で約1時間。福岡空港では格安航空会社(LCC)2社を含む計3社が週59便を運航する。政府は25年までに訪日外国人(インバウンド)の旅行者数や日本人の海外旅行者数について、新型コロナ禍前の水準を上回ることを目指しているが、観光庁の担当者は「QBで訪日する韓国人旅行者はそれほど多くない。釜山と福岡の間は航空便やフェリーもあり、インバウンドに対する影響はそれほど大きくないのではないか」との見方を示した。

 下関市立大の小柳真二准教授(経済地理学)は「日韓の高速船航路が90年代以降の旅行の裾野を広げた功績は大きいが、LCCの普及でかつてのような成長事業ではなくなった。JR九州は観光列車などで移動に付加価値をつける交通ビジネスを得意とし、船旅そのものを客に楽しませるためにQBを投入したが、新型コロナ禍や今回の不正で本領を発揮できなかった」と指摘。その上で「往来の主流は航空機とはいえ、高速船がなくなれば快適な子連れの旅といった移動手段の多様性は失われる」とも述べた。【下原知広、田崎春菜、栗栖由喜、久野洋】

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