本堂の外には「お楽しみブース」と題し、地元のお菓子やコーヒーなどが販売されていた=福岡県田川市で2024年11月30日、日向米華撮影

 かつて炭鉱で栄え、現在は65歳以上の高齢化率が34・44%と3割を超える福岡県田川市内の寺で11月末、人生の終わりについて考え、備える「終活」イベントが初めて開かれた。その名も「縁起でもないつどい あなたも死亡率100%」で、生老病死に向き合う地域の病院や介護事業者、寺の異業種が協力して手作りで作り上げたイベントだ。その狙いとは。

 日差しに恵まれた11月下旬、同市にある真宗大谷派・西岸寺には軽快な音楽が響き渡り、コーヒーや野菜などのお店が立ち並んだ。気軽な雰囲気は本当に終活イベントなのかと疑ってしまうほどだ。だが、本堂に一歩足を踏み入れると、そこは相談ブース。社会保険田川病院(同市・335床)やソレイユ介護福祉事務所(川崎町)に加え、葬儀や不動産業者など9業者が来場者の無料相談に応じていた。

 糸田町に住むパートの藤本明美さん(55)は「普段は誰にも聞けないから」と足早に本堂に。海洋散骨や墓の整理などのサービスを提供する有限会社「縁」(鹿児島県南九州市)のブースで、実家の墓じまいの適切な時期を相談。担当者は「墓を管理している人が『墓じまいしよう』と言った時です。ただ手を合わせる場所がほしいなら、ご遺骨やご遺灰の一部を寺や自宅に残す『お手元供養』もできる」などと助言していた。

本堂内に設けられたブースには、海洋散骨や家族葬などの専門業者が集い、来場者のさまざまな相談内容に応じた=福岡県田川市で2024年11月30日、日向米華撮影

地域で奮闘する人たちの出会いから

 寺で終活イベントを開催するきっかけは、地域で奮闘する人たちの出会いから生まれた。厚生労働省の「地域がん診療連携拠点病院」に指定されている田川病院は、患者やその家族以外にも同病院や医療を知ってもらおうと、地域での広報活動に力を入れている。

 同病院院長補佐の小塩誠さん(38)は2月ごろ、市民講座のチラシを置いてもらおうと行きつけのスパゲティ店に足を運ぶと、人脈が広いからと店主の娘でデザイナーの公門(きみかど)友里絵さん(36)を紹介された。小塩さんの「医療に関心のない人にも医療を知ってほしい」という思いを知った公門さんが、知人だった西岸寺の中西無量住職(50)やソレイユ介護福祉事務所の担当者を紹介し、異業種を超えたつながりができた。

 5月ごろから、3人を中心に分野を超えたメンバーで集まるようになり、「何か一緒にやりましょう」「お寺でやったら面白いね」とイベントが具体化していった。テーマは「終活」。小塩さんは「病院や介護施設でお世話になって亡くなった後は、葬儀屋さんやお坊さんが来て、火葬して……という一連の流れになっている。我々が連携すれば、患者さんたちは早い段階からお墓に入るまでを想定して生活し、よりよい人生が送れるはずと思った」と語った。

本堂内には「終活」に関するさまざまな悩みを抱えた人々の行き来が絶えなかった=福岡県田川市で2024年11月30日、日向米華撮影

「悩みの一つが解決」

 会場には普段は相談しづらい終活の解決策を求める人らが続々と訪れた。とりわけ真剣な表情で相談する女性(71)がいた。女性の義兄(80)は子どもに縁を切られ、きょうだいとも疎遠。唯一頼れるのか、義兄は女性に葬儀と樹木葬による納骨を頼み、その資金も預けていた。

 ただ、女性は自身の子どもたちに「葬儀は何も言わないけど、知らないおじさんの遺骨をこの家に入れないでくれ」と言われ、義兄が亡くなった後の遺骨の置き場に困っていた。悩みを聞いた中西住職は、寺で一時的に遺骨を預かることを提案。女性は「悩みの一つが解決した」と胸をなで下ろしていた。

 夕方、会場を後にする人々の足取りは心なしか軽やかに見えた。異業種の人たちをつなげた公門さんは「終活について気軽に相談できる場所を必要としている人は多いと分かっただけでも大きな成果。でも、まだまだ序章です」と笑顔で来場者を見送っていた。

「ハブになりたい」

 公門さんも配偶者や子どもがおらず、日々、終活への不安を感じていた一人。「終活は暗い話になりがちだけど、今からでも勉強すれば前向きな気持ちになれ、自分の望む終わり方ができると感じた」と不安を一つ解消したようだった。

 寺を会場として提供した中西住職は「『困りごとのある人の心を軽くするための結節点(ハブ)になりたい』という願いも思いがけず実現できた」とうれしそうだった。

 「縁起でもないつどい」は体制や内容を改善しながら今後も継続する予定だという。初の試みに中西住職は「終活や死生観は全員に関わる話。田川は過疎地域だからこそ地域の横のつながりを強くすることが大事。田川には他にも多くの寺があるので、今回のように寺を地域に開き、生老病死を語れるような取り組みが広がればうれしい」と期待を寄せた。【日向米華】

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