高知県議会は12月定例会最終日の20日、「県手話言語条例」案を全会一致で可決した。手話を言語と位置づける条例で、県レベルでの制定は四国では初めて。年内に公布・施行される見通し。【小林理】
傍聴席の当事者、横断幕で喜び
条例は「いつでもどこでも手話が広く使われる社会」を目指す。「手話は、音声言語とは異なる語彙(ごい)や文法体系を有し、手や指、体の動きや表情などにより視覚的に表現される独自の言語である」とうたい、手話を言語だと明確に位置づけた。
条文では、手話の普及施策の策定・推進を県の責務とした。県民は手話に対する理解を深め、事業者は利用者に手話などで情報提供したり、聴覚障害者が働きやすい環境整備に努めたりすることが役割とされる。県民の手話学習機会の確保や、学校での手話教育支援も明記された。今後、県は県職員の手話研修の充実や、手話通訳者が確保しにくい中山間地域や小規模自治体への遠隔手話通訳システムの導入を進める。
県議会にはこの日、条例制定を待ちわびていた多くの聴覚障害者が傍聴席に詰めかけ、可決後に議場で横断幕を持ち喜びを表現した。県内の聴覚障害者は2312人(2024年3月末現在)。全日本ろうあ連盟によると、全国では38都道府県、512市区町村(12月18日現在)が手話言語条例を制定。四国の市町村では、高知11▽徳島1▽香川7――で制定されている。
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条例制定に当たって、高知県が設置した検討委員会に当事者として参加した県聴覚障害者協会の竹島春美会長(64)に条例の意義や込めた思いを聞いた。
――県条例が制定された受け止めは?
◆条例の狙いは、聞こえる人の「普通」を聞こえない人たちにも当たり前にすること。やっとスタートラインに立つための準備ができたという感覚だ。
――手話が言語であることを明確にする意義は?
◆聞こえる人に想像してもらいたい。日本語が全く通じない国や場所で病気になってしまった時の心細さを。同じように、耳の聞こえない人は音声言語が当たり前の場所では、言いたいことが伝わらない。言葉は自分の言いたいことを相手に伝え、相手の言いたいことを理解して心を通わせ合うものだ。言葉によって知識を獲得し、生きる力を育てる。社会で生きていくために必要なので「手話は命」と言っている。
――手話への理解が欠けていたことで、これまでどんな問題がありましたか?
◆例えば、施設に入所している高齢者で壁に向かって手話をしている人がいた。周囲は認知症かと思ったが、その施設には手話が分かる人がいないので、ただ一人で話をしているだけだった。別の例では、入院した人が「暴れるから」という理由で両手を拘束されていた。本人に話を聞くと、酸素マスクのゴムがきつくて耳の後ろが痛いので、「痛い」と手話で何回も伝えたが、手話を分かってもらえず暴れていると思われたということだった。耳の聞こえない人は、書き言葉の文字だけでは、治療の「切る」と体を傷つける「切る」の違いが分からない場合がある。手話ならその違いは表現できる。だから「手話は命」はまったく誇張ではなく、本当に生命にかかわることだ。
――今後、どんな社会になればいいと考えていますか?
◆「聞こえない人はこんなことで困っている」と、分かる人が社会に伝えて広がれば世論になる。手話通訳者が公的な場所に配置されることはとても大切だが、手話で対応できる人が増え、聞こえない人から逃げずに対応することはもっと大事だ。そういう人が増えれば暮らしは変わる。
手話は聞こえない人のためだけのものではない。聞こえる人も、手話を通じて相手を理解することができる。日常生活でお隣の人が手話が分かる。いつも行くお店の人が手話や筆談で対応してくれる――となれば、すべての人の暮らしが豊かになる。話すことは誰にとっても楽しいことなのだから。
条例の第1条に「ろう者を含む全ての県民が」という文言がある。聞こえない人も当たり前に県民なのだから、本来は特別に「ろう者」と書く必要はないはず。これからの施策で、「ろう者を含む」という言葉が外せる世の中にしたいと思う。
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