過疎地などで地域医療が崩壊する一方で、自由診療を中心とする美容医療クリニックが増加している。臨床研修を終えた直後から美容医療に従事する若手医師も相次いでおり、こうした動きを指す「直美(ちょくび)」という言葉まで生まれた。放置すれば医師偏在をさらに深刻化させかねないとして、国は規制強化に乗り出す。
美容クリニックを2年前に開業した30代の男性院長は、勤務医だった頃の過酷な日々を思い返す。
国立大医学部を卒業後、外科医として病院に勤務した。親族と同じ脳神経外科の開業医を目指していた。
だが「多忙な中、頭も回らず、患者に向き合えている状況ではなかった」。急な手術や当直などで体は疲弊した。患者の治療や自分自身のことも思い「外科医に向いていないのではないか」と、考えるようになったという。
美容医療に「マイナスをゼロでなくプラスに変えるポテンシャルがある」と転向し、東京都内で美容クリニックを開業した。
収入面も転向を決めた一つの理由だ。多くの同級生は勤務医より高給の企業に勤め、働き方改革が進んでいた。「勤務医の待遇は仕事の内容に見合ってないな」とつくづく思っている。
厚労省の調査によると、美容外科を掲げる診療所は23年時点で2016施設に上り、3年間で4割以上も増えた。SNS(ネット交流サービス)の発達などで美容医療の需要が増えていることが背景にある。花形のイメージと裏腹に激務の外科医が、各地で不足しているのと対照的だ。
厚労省は、美容医療を中心とした自由診療に医師が流れるのを抑制するため、保険診療を行う医療機関を開業する要件に、保険医として3年以上の勤務経験を課すことを検討する。美容クリニックは保険診療を手がけることもあるためだ。しかし、自由診療だけを提供するクリニックが多く、効果のほどは未知数だ。
男性院長は、自身が従事していた外科など特定の診療科で医師が不足していることについて「時代に合わせて待遇や働き方の改善を図るべきだ」と考えている。一方で、美容医療も患者のためになっているという自負があり、過度な規制には反対だという。【松本光樹】
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