NHK、森下俊三前経営委員長との和解成立後に記者会見に臨む原告団=東京・霞が関の司法記者クラブで2024年12月17日午後4時半、平本絢子撮影

 「完勝と言って差し支えない」。和解が成立した17日午後、東京都内で記者会見を開いた原告団の沢藤大河弁護士は強調した。「原告団が訴訟で目標にしたのは、隠蔽(いんぺい)された経営委議事録の公表であり、経営委員長の責任の明確化だった」とその理由を述べた。

 沢藤弁護士ら原告団はNHK側が和解に応じた理由について1審で議事録が存在しないと認定されたのが大きかったと分析する。この状態のままでは、議事録の作成・公表を義務づけた放送法41条に違反していることになりかねないからだ。「1審判決が出て、経営委は議事録を作り、公表しなければならないことは明らかになった」と見る。

 この訴訟は、2021年6月、市民グループがNHKと森下俊三前経営委員長を相手取って提訴し、経営委の議事録や録音データの全面開示を求めた。今年2月、東京地裁は正式な議事録が作成された痕跡はないとして、議事録の開示請求を棄却した。その代わりに、NHKに録音データの開示などを命じる判決を出したが、NHKと森下氏が控訴していた。

 沢藤弁護士は会見で「確定したわけではないが、1審の判決で裁判所は議事録が存在しないという点で、放送法41条に違反していると判断したと考えている」と説明した。

 経営委は当初、厳重注意の際の詳細なやりとりを公表しなかった。NHKが設置する第三者機関「NHK情報公開・個人情報保護審議委員会」による2度の答申の末、21年7月に全面開示されたが、「正式」ではない「粗起こし」と呼ばれる文書で、毎日新聞などの情報公開請求に応じる形だった。今回の和解成立により、18日以降、経営委サイトでこの「粗起こし」が正式な議事録として一般公開され、誰でも閲覧できるようになる。NHKは整理・精査されていないとして「粗起こし」と表現してきたが、経営委の森下委員長代行(当時)らと上田良一会長(同)の具体的な応酬など全容が分かる。

 問題の発端は、NHKが18年に「クローズアップ現代+」で報道したかんぽ不正販売の問題を追及した番組。日本郵政グループがガバナンスの検証を求めて抗議し、その意向を受けた経営委の森下氏らが番組の取材手法などを批判した。

 毎日新聞は19年9月以降、経営委が上田氏を会合に呼び、厳重注意していたことや、森下氏が厳重注意で主導的な役割を担い、会合で「今回の取材は極めて稚拙」「番組の作り方に問題があった」などと発言していた事実を報道した。上田氏は「個別(番組)のところに入っていくと、経営委も含めて非常に大きな問題になる」などと反論したが、厳重注意は覆らなかった。放送法は経営委員による個別番組への介入を禁じており、森下氏らの発言は同法違反と批判が高まった。

 17日の会見で、原告団事務局長で元NHKプロデューサーの長井暁さんは「NHKが大切にしなければならない、放送の自主自律が損なわれた。今回の和解は画期的なこと」と評価した。

 和解を受け、経営委の古賀信行・現委員長は17日、記者団の取材に「議論したことの概況を残すことが非常に大事だと改めて思った。状況を簡潔にきちんと世の中に示しておけば、こんなにごちゃごちゃしなかったという意味で、今後の教訓になる」と述べた。森下氏は毎日新聞の取材に「NHKにはいないので、失礼します」と述べ、コメントしなかった。【井上知大、諸隈美紗稀】

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