丹波産がなく、他県産への切り替えを検討する販売店の黒豆売り場=奈良市で2024年11月22日午後1時26分、山口起儀撮影

 今夏の猛暑は、年始の楽しみを奪うかもしれない。おせち料理に欠かせない「丹波の黒豆(黒大豆)」が売り場で極めて少ないのだ。不作や品質不良により出荷遅れや流通量激減を招き、仕入れ不足に悩む販売店は他県産への切り替えを余儀なくされている。他県産は前季収穫分の在庫でやりくりできるが、人気の丹波産は既に在庫がなく「高級な丹波産で新年を迎える楽しみがなくなる」と買い物客も嘆く。

 「今年は丹波産の入荷が極めて厳しい。不景気でも新年は高級な丹波の黒豆で景気づける人も多く、お客様に申し訳ない気持ちでいっぱいだ」

 奈良市内の豆販売店の店主はため息をついた。12月は売り場が最もにぎわう時期。これに合わせて収穫した新物を仕入れて販売しているが「卸売業者から既に『年内は丹波産を回すことができない』と言われ、滋賀産などの仕入れを検討している」と話す。

 同店の主力はこれまで、丹波産だった。大粒で、皮に白い粉が付いて破れにくく、甘みが強いため、最も高価で「黒豆の王様」とも呼ばれる。総販売量の約6割を占め、売上高も毎年安定していた。これまでは当季にとれた丹波産に加え、前季に取れた奈良産や岡山産の3種類を扱ってきたが、今年は丹波産は絶望的で、産地自体を増やす可能性もあるという。

 今季の不作の原因の一つに挙げられるのが猛暑だ。黒豆は一般的に気温が下がり、空気が乾燥し始める秋に成長する。ところが今年は10月になっても高温の日が続いた。

 11月下旬~12月中旬にかけて出荷最盛期を迎える丹波産は「皮の破れや割れが目立ち、出荷基準に満たないものが増えている」(丹波篠山市場)ほか、収穫も10日~2週間程度遅れており、16日時点の出荷量は前年同期のわずか3割程度にとどまる。結果として「年内の流通量が減り、正月用として売り場に陳列できない店が増える可能性がある」(同市場)という。

 丹波産が不作の際に、頼みの綱となるはずの他県産も出荷量が減る見通しだ。黒大豆の栽培には昼夜の温度差が大きいことが大事で「標高の高い盆地などが適している」(県豊かな食と農の振興課)が、盆地も軒並み猛暑だったためだ。

 1月中旬が出荷ピークの宇陀市周辺は「暑さの影響で実りが悪いという農家の声が多い」(同課)。12月~年明けの出荷が多い岡山県は「さやに実が入らない生育不良の物も多く、今季の出荷量は平年の半分程度になりそう」(岡山県美作広域農業普及指導センター)など、厳しい声が聞かれる。【山口起儀】

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