農業法人「すえひろ」の政田将昭さん。能登半島地震により農道には地割れが生じた=石川県珠洲市で2024年3月27日、平塚雄太撮影
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 能登半島地震で甚大な被害が出た石川県北部の被災地で、田んぼが地割れするなど農業被害が深刻だ。「このままでは、離農する人が増える」。地元では、そんな危機感が広がっている。その背景を探ると、農業ならではの事情があった。

 「田んぼのあらゆるものがダメになった。これからどうしたらよいのか」

 石川県珠洲(すず)市最大の農業法人「すえひろ」に勤める政田将昭さん(49)は、ため息交じりにそう話す。

 すえひろは、市内で田畑約140ヘクタール(甲子園球場36個分に相当)を耕作し、社長を含め11人のスタッフを抱える。主力の米は約115ヘクタールで栽培し、コシヒカリや地元ブランドの「能登ひかり」などを作ってきた。

 だが、地震の影響で、田んぼの間を走る農道は幅30センチほどの割れ目がざっくり口を開けている。育苗施設や農業機械も損傷した。政田さんは、今春からの耕作のため予定していた資材の発注をあきらめた。

 被害は、それだけではなかった。用水路のコンクリートが崩れたり配管が土砂で埋まったりして、水を流せない所が多い。田んぼの下にある農業用水の送水管も壊れた。

 政田さんは「仮に水を流せたとしても、田んぼにうまく水がたまるか分からない」と不安を口にする。仲間とともに約3週間かけて田畑を回り被害状況を確認した。

 すると、そのままでは1ヘクタールしか耕作できないような状況だった。このため、県などに応急対策を依頼し、近くの川から水をポンプで引き上げられるようになった。「これで、50~70ヘクタールの田んぼに作付けができる見通しが立ってきた」

 4月9日、例年より約2週間遅れで育苗箱に種をまく作業に入った。

 ただ、地域の農業が維持されるのか、先行きは不透明だ。

 というのも、用水路は地域の共有財産だからだ。今後、どのように本格的に復旧させ、維持管理していくのか、地域で決めなければならない。避難先から戻っていない農家も多く、高齢者の割合も高い。政田さんは「離農する人が出てくるかもしれない」と不安を口にする。

 輪島市内で管理する25ヘクタールの田んぼのあちこちで液状化現象が起きたという竹内毅(つよし)さん(41)も危機感を募らせる。

 「『用水路を今年中に修復するなら、また農業をやりたい』という人はいる。農業コミュニティーを維持できるように復旧を急ぎたいが、生活再建もままならない人が多い中、あまり大きな声で農業の復旧を急げとは言えない」

 2020年の県の統計によると、個人で営んでいる65歳以上の農家の割合は、地震の被害が大きかった奥能登地域で5割に上った。

 こうした状況から、政田さんは「今後、担い手不足が一層進む恐れがある」と懸念する。「行政は、今後も見据えた復興プランを考えてほしい」【平塚雄太】

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