アートの保健室活動を支える「おすそわけHUB」に持ち込まれた素材を前にする土谷享さん=愛媛県今治市で2024年12月6日、松倉展人撮影

 愛媛、高知の両県で21の福祉施設を運営する社会福祉法人来島(くるしま)会(愛媛県今治市)は2024年度、「アートの保健室」というプロジェクトを始めた。障害者支援施設や児童福祉施設などの現場で「支援する側、される側」という固定した意識から抜け出し、体験型アートイベントを通じて利用者と職員が共に表現活動を行う試みだ。

 プロジェクトは、利用者の表現活動を法人が積極的に支援し、職員の意識変革も促すのが狙い。「いつでも気軽に立ち寄れる場所」として保健室をイメージした。現在、来島会の各事業所を利用しているのは986人。利用者と職員、地域の人にも制作の輪を広げ、「もちつもたれつ」の交流を生み出すことを目指している。

 高知県佐川町で地域密着のアート活動を繰り広げる美術家の土谷享(たかし)さん(47)がプロジェクトのサポート役を務める。

プロジェクトの拠点施設「おすそわけHUB」には「もらいます」「あげます」ノートがあり、各施設がアート素材の提供・利用情報を共有している=愛媛県今治市で2024年12月6日、松倉展人撮影

 愛媛県今治市の勤労継続支援事業所では今夏、従来は摘果作業で廃棄されていたシャインマスカットの未熟果の酵母を使ったカンパーニュ(フランスパンの一種)作りを試みた。試作に協力した土谷さんの知人で北海道在住のアーティスト、磯崎道佳さんとオンラインでつないだ試食会もあった。事業所の重松理恵マネージャーは「利用者の皆さんも積極的に質問し、とても楽しそうな姿が印象的でした」と振り返った。

 収穫後に残ったシャインマスカットの茎も、綿と組み合わせるとミニ・クリスマスツリーに変身する。通常なら廃棄されるボール紙や木片、トイレットペーパーの芯なども「景色を変えるものになるのでは」と土谷さん。来島会はプロジェクトの拠点施設として、事業所で発生したこれらの「もったいない」品々を持ち寄る「おすそわけHUB(ハブ)」を今治市内に設けた。各施設が表現活動に気軽に取り組めるよう後押しする。

 また、24年度中に同市内の古民家をギャラリー空間として開放する予定。「おすそわけHUB」のサテライト施設としても役立て、支援力を高めることにしている。【松倉展人】

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