弾道ミサイルを探知・追尾するXバンドレーダーを配備した米軍経ケ岬通信所が2014年12月に京都府京丹後市丹後町で稼働を始めて26日で10年になる。基地“受け入れ”の際、中山泰市長は「住民の安全と安心の確保が大前提」と繰り返し表明したが、現実はどうなってきたのか。近畿で唯一の米軍基地の町の10年を検証する。【塩田敏夫】
京都府京丹後市の中山泰市長は、米軍経ケ岬通信所の軍人・軍属が起こした交通事故情報提供の現行ルールについて「画期的」と表現した。11月25日、地域住民とともに基地の課題を話し合う第40回米軍経ケ岬通信所安全安心対策連絡会(安安連)でのことだ。基地発足以来の取り組みを振り返り、自らが関与した現行ルールについて「画期的対応は(米軍との)相互の信頼醸成の仕組みや積み重ねの上にあると受けとめている」と自画自賛したのだ。
「画期的対応」とは何か。同基地軍人・軍属の交通事故を巡る情報提供について「原則全件開示・例外不開示」とする新たなルールが中山市長の働きかけで2020年12月から導入されたことを指している。
しかし、地元自治会関係者は「画期的どころか、当初の情報提供ルールから大きく後退している。非開示とする例外は物損事故で、件数のみの公表となった。事故の傾向や原因を分析し、肝心の対策を取ることが難しくなった」と指摘する。
交通事故情報の提供ルールは元々、「米軍の被害、加害を問わず全てを速やかに府と市に報告する」だった。14年の基地発足後、米軍関係者の事故が多発して地元で不安の声があがり、防衛省が住民に約束したルールだ。
しばらくの間、約束は守られた。事故情報は府、市や地元自治会との間で共有された。事故発生を受け、地元自治会は現場を確認し、危険箇所にはカーブミラーを付けるなどの対策を府丹後土木事務所に提案、それが実現することもあった。自治体と住民が連携した「傾向と対策」は事故防止に役立ってきた。
しかし、18年2月4日の事故を最後に情報提供は途切れる。1年以上事故情報はゼロとなった。住民や市がその理由を繰り返し尋ねたが、防衛省は「在日米陸軍に照会中」としか答えなかった。
事態が急展開したのは翌19年3月19日。防衛省は第19回安安連でこれまでの「全件報告」を撤回し、「今後は重大事故を除いて件数のみを報告する」とする新ルールを通告した。前市政は長期間連絡が途絶えた理由をただすことも、重大事故の基準を問うこともなくこれを容認した。こうした前市政の姿勢に対しては住民が市役所前で抗議集会を開いた。
「全件報告」撤回の「真相」は19年3月28日の参院外交防衛委員会の質疑の場で明らかになる。日本共産党の井上哲士議員の質問に、「米軍の申し出」によるものであることを防衛省が明らかにしたのだ。しかし、「いつ、どこから」の申し出だったかは、「日米関係から差し控える」としか答えなかった。
その後、20年6月に軍属が酒気帯び運転で物損事故を起こしたことをきっかけに事故報告ルールを巡る議論が再燃した。その2カ月前の市長選で返り咲いた中山泰市長は前市政が容認したルールについて「誰が重大事故と判断するのか。検証する必要がある」として新ルールの策定を防衛省に求めた。
その結果、現行のルール「車両との接触など軽微な事故を除き、原則として可能な限り速やかに情報提供する」が決まった。米軍関係者の事故の公表基準は自衛隊員に準じ、飲酒運転や無免許、ひき逃げなどとした。
しかし、物損事故の内容は公表されないままで、地元自治会関係者は「物損事故でも場合によって重大な事故のケースがある。現行のルールでは、事故の内容を把握できず十分な対策が取れない。そもそも米軍が自ら情報を提供するのか」と疑問の声を上げている。
そして、22年11月に発生した「物損事故」をめぐる騒動が起きる。
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