厚生労働省は、来年の通常国会に法案の提出を目指している年金制度改革で、会社員らに扶養される配偶者が年金保険料を納めなくても基礎年金を受け取れる「第3号被保険者制度(3号)」の廃止を盛り込まない方針だ。パート従業員らの働き控えを招く「年収の壁」の温床と批判され、日本商工会議所や連合などが将来的な廃止を求めていた。直ちに廃止すると不利益を被る人が多いため、本格的な議論は5年後の次回以降になるとみられる。
公的年金制度の加入者には三つの区分がある。自営業者やフリーランスなど国民年金の保険料を自ら納める「第1号被保険者」と、会社員や公務員など労使折半で厚生年金保険料を支払う「第2号被保険者」に加え、3号だ。3号の主な加入者は専業主婦やパート労働者らで、勤務する企業の規模が従業員50人以下なら年収130万円、51人以上なら同106万円未満であれば3号にとどまれる。
3号は1985年に、サラリーマン世帯の専業主婦でも自分名義の年金権を確保できるよう創設された。当時は約1093万人が加入していたが、共働き世帯の増加を背景に今年5月時点で約676万人に減少。20代女性で3号の人は1割未満だが、35歳以上になると約3割を占める。
10月以降、連合や日本商工会議所、経済同友会が中小企業の人手不足を背景に「将来的な廃止」を求める提言を公表。共働きが増加する中、働かずに年金を受け取れることに不公平感も残り、男女の賃金格差を助長するとの批判も上がる。
年金制度改革を議論する厚労省の社会保障審議会年金部会では、これまで3号のあり方を複数回議論している。委員からは「女性の就労を阻む」と廃止を求める意見が上がる一方、「3号には所得保障機能がある」などと存続を求める声もあり、現段階で議論は収束していない。
年金制度は5年に1度見直されており、厚労省は次回以降、廃止するかどうか本格的な議論を始める方向だ。当面はパート労働者が厚生年金に入りやすくなるよう要件を緩和し、3号からの移行を目指している。【宇多川はるか】
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