「紀州のドン・ファン」と呼ばれた男性を殺害した罪に問われている元妻の裁判員裁判は、12日判決を迎えます。

検察側の証人が28人にも及ぶ裁判で、一体何が明らかになり、何が明らかにならなかったのか。記者が見た緊迫の「法廷バトル」とは。

■事件からおよそ6年 裁判で語られた内容を再現

2018年、和歌山県田辺市で、「紀州のドン・ファン」と呼ばれた資産家の野崎幸助さん(当時77歳)が自宅で死亡しているのが見つかった。

死因は、「急性覚醒剤中毒」。野崎さんを殺害したとして逮捕・起訴されたのが、元妻の須藤早貴被告(28)だった。

50歳以上も年の離れた夫婦の間に一体何があったのか…。これまで沈黙を守り続けた須藤被告。

事件からおよそ6年経ってようやく始まった裁判員裁判で語られた内容とは。

22回にも及ぶ、異例の長期裁判。関西テレビの記者が記した157ページにも及ぶ傍聴記録をもとに再現した。


■はっきりとした口調に打って変わった須藤被告

裁判が始まったのはことし9月のこと。法廷に現れた須藤被告は、黒のノースリーブのワンピース姿だった。

【須藤被告】「私は、社長を殺していませんし、覚醒剤を摂取させたこともありません。私は無罪です」

記者が初めて聞いた須藤被告の声。か細く聞き取るのがやっとだった。しかし再び証言台に立ち、野崎さんと初めて会った日に、結婚を申し込まれたことについて聞かれると…

【須藤被告】「冗談だと思ったので、『毎月100万円くれるんだったら、いいよ』と言いました。『ラッキー』と思いました」

打って変わり、はっきりとした口調に。さらに野崎さんとの結婚に応じた条件については…

【須藤被告】「『あなたとはセックスできません』と言いました。初めて会った時、オムツしてたので生理的に無理だなと思いました」

自らの考えを赤裸々に語るシーンが数多く見られた。

■「野崎さんに頼まれて覚醒剤を購入した」異例とも言える28人の証人尋問

殺害の直接的な証拠がない中での裁判。検察側が立証しようとしたのは主に2つの点。 まず「野崎さんが覚醒剤を飲んだとみられる時間帯に、家に須藤被告と2人きりだった」ということ。次に「被告は致死量を超える覚醒剤を入手しようとした」ということ。

検察側が証人尋問を行ったのは、異例とも言える28人。その中には、覚醒剤の密売人の証言も含まれたが、初めて須藤被告が明かしたのは「野崎さんに頼まれて覚醒剤を購入した」という主張だった。

【検察官】「なぜ、捜査段階で『社長に頼まれた』と言わなかったんですか?」

【須藤被告】「言ったらどうなるか分からなかったから。すでに殺人犯扱いだったので」

【検察官】「『私じゃない』と言えばよかったのではないですか?」

【須藤被告】「警察に言ったところで、信じてもらえるとは思っていませんでしたし、怖くて言えませんでした」

覚醒剤を入手しようとしたことは認めたものの、野崎さんが口からどのように覚醒剤を摂取したかは裁判を通して、明らかにならなかった。

■須藤被告のスマートフォンの「検索履歴」 検察側は「不自然な検索」

一方で、裁判で大きな争いとなったのは須藤被告のスマートフォンの「検索履歴」。

【検察官】「野崎さんと電話した7分後に『完全犯罪』と検索している。野崎さんと『完全犯罪』は関係がありますか?」

【須藤被告】「ないです」

【検察官】「『覚醒剤・過剰摂取』というワード自体で検索したのは事実ですか?」

【須藤被告】「まちがいないです」

検察側は「不自然な検索」と指摘。

■「昔から特殊な殺人事件とかグロテスクなものを調べるのが好き」

一方、弁護側の質問に対してはこう弁解した。

【須藤被告】「昔から特殊な殺人事件とかグロテスクなものを調べるのが好きでした」

【弁護人】「平成29年に猟奇殺人などを検索して、アクセスしていますね。これは野崎さんと知り合う前ですか?」

【須藤被告】「はい」

【弁護人】「知り合った後にも調べていましたが、特別な理由はありますか?」

【須藤被告】「ないです」

【弁護人】「『老人・死亡』などの検索履歴がありましたが」

【須藤被告】「直前に見ていた動画が関係しています。老人ホームで3人が転落死する事件で、殺害を認めた男のインタビューを再生していました。直前の動画に影響されて、その関連のものを見たくて検索しました」

■「殺人罪時効」「殺人自白なし」などの検索履歴も

検索履歴はあくまで趣味であり、野崎さんの事件とは関係ないと一貫して主張した。

今回の裁判で検察側が明らかにしたのは、須藤被告が事件の数日後に、行ったという検索の履歴。

その中には「昔の携帯通話履歴警察」、「遺産相続どれくらいかかる」。また、事件翌年には「殺人罪時効」「殺人自白なし」などの検索履歴があったという。

■須藤被告「もうちょっと、死に方を考えてほしかった」 12日判決

そして、被告人質問の最終日。須藤被告が終盤、口にしたのは…

【弁護人】「社長が目の前にいたら、文句を言ってやりたいと言っていましたが、今いると思っていってみてください」

【須藤被告】「もうちょっと、死に方を考えてほしかった。社長がこのタイミングで死んだせいで、私は何年も人殺し扱いなので。クソ」

20回以上にも及んだ裁判。須藤被告が野崎さんを殺害したという決定的な証拠は出てこなかった。 しかし、検察側は「犯人は被告以外に考えられず、財産や命を奪われた結果は重大」として無期懲役を求刑。

誰が一体野崎さんを殺害したのか…。判決は、12日午後1時40分に言い渡される。

(関西テレビ「newsランナー」2024年12月11日放送)

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