神奈川県は10日、県立知的障害者施設「中井やまゆり園」(中井町)に長期入所の順番待ちをしていた40代男性を殺害したとして父親が起訴された事件に関し、この家族の支援状況を検証する中間報告をまとめた。事件前、自宅でのケアについて父親が何度も「そろそろ限界だ」と園に訴えていたことが判明。園について「機械的な対応が家族を追い詰めた」などと指摘した。【蓬田正志】
事件は7月4日、親子が県内から転居した千葉県長生村で起こった。直前まで中井やまゆり園に長期入所の順番待ちをしていたことから、学識経験者らで構成するチームが8月から検証に当たっていた。
報告書によると、親子は小田原市に住んでいた。男性には強い行動障害があり、1998年から中井やまゆり園を利用。主に短期入所で、自宅では父親がほぼ面倒をみていた。
園では男性の首に絞められたような痕が見つかったこともあった。報告した小田原市の担当者が父親から「ついやってしまった」と状況を確認したが、深刻な虐待のケースとは認識されていなかった。その後も父親が対応に疲弊し、男性に手を上げてしまうこともあったという。
コロナ禍で短期入所を中止していた2020年10月には、父親が園に長期入所を申し込んでいた。その前後でも父親は「精神的に持たない」「そろそろ限界だ」として何度も長期入所を希望していた。
だが、園では職員による利用者への虐待が発覚したため、22年4月から受け入れを停止。親子は24年5月の園の短期利用を最後に転居したという。
報告書は、園側について「入所を求めた際の機械的な対応が家族を追い詰め、家族が将来に希望を持てなくなってしまった」「命に係ることが想定される重要な問題として組織で対応することができなかった」と指摘。支援機関間の連携についても十分ではなかったとした。検証チームはさらに転居後のサービス利用状況などを確認し、最終報告書をとりまとめる予定。
「職場内にハラスメント」5割 職員アンケート
職員による利用者虐待が問題となった県立知的障害者施設「中井やまゆり園」で職員アンケートをしたところ、5割近くが職場内のハラスメントに悩んでいると回答したことが判明した。県が10日、県議会常任委員会で明らかにした。県はハラスメントの実態について調査に乗り出した。
アンケートは8月15~28日に全職員187人を対象に実施。122人が回答した。
アンケートで、県が2026年度に移行を目指す地方独立行政法人化後も働きたいかを聞いたところ、「別で働きたい」との回答が74人に上った。理由について、最も多かったのが、「業務にやりがい、魅了を感じない」が38人。次いで「職場の雰囲気、人間関係が良くない」が33人などだった。
今の仕事で困っていることについて尋ねたところ、ハラスメントを選んだ人は56人に上った。具体的には「幹部職員やアドバイザーが思いやりや配慮に欠けた態度を取る」「会議などで強く叱責される」などの意見が寄せられたという。
中井やまゆり園では、22年度から利用者支援を改善するため外部アドバイザーを入れている。県は「真摯(しんし)に受け止め、課題の改善を早急に進める」としている。【蓬田正志】
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