部下の女性に性的暴行を加えた罪に問われている大阪地方検察庁のトップだった男の裁判。男の弁護士が交代となり、初公判から主張を変えることを明らかにしました。
異例の展開の裏に何があるのでしょうか。
■2カ月足らずで弁護方針を一転、無罪主張を表明
【北川健太郎被告】「公訴事実を認め、争うことはしません」。
ことし10月に大阪地裁で開かれた初公判。
法廷でこう語ったのは、部下の女性検事への性的暴行の罪に問われている北川健太郎被告(65)。元大阪地検のトップ、検事正でした。
しかしそれから2カ月足らずの10日…
【中村和洋主任弁護士】「今後、裁判では無罪を争う方針です。北川さんには事件当時、Aさん(被害者)が抗拒不能であったという認識はなく、Aさんの同意があったと思っていたため犯罪の故意がありません」
2回目の裁判を前に弁護士2人が交代。これまでの弁護方針を一転させ、無罪を主張すると表明したのです。
■かつての「関西検察のエース」 性的暴行を加えた罪
かつて「関西検察のエース」としてその名を知られた存在だった北川被告。
6年前、自身の検事正就任祝いを兼ねた懇親会の席を共にし、酒に酔って抵抗できない状態となった部下の女性検事に、当時住んでいた自身の官舎で性的暴行を加えた罪に問われています。
■「身も心もぼろぼろ」女性検事はPTSDと診断され休職
初公判の後、女性検事は記者会見を開き、悲痛な胸の内を明かしていました。
【被害を訴えている女性検事】「女性として妻として母としての私の尊厳、そして検事としての尊厳を踏みにじられ身も心もぼろぼろにされ、家族との平穏な生活も大切な仕事も全て壊されました」
女性検事は事件後、北川被告から「同意があると誤信していた。表沙汰にすれば大阪地検が立ち行かなくなる」などと書かれた書面を受け取ったため、被害をすぐに申告できなかったといいます。
また去年12月、PTSDと診断され休職し、一時は復職するも再び体調を崩し、今も検事への復帰は果たせていません。
■『これでお前も俺の女だ』 初公判では「争わない」姿勢
そして、ことし10月に始まった裁判。
検察側は「泥酔状態で官舎に連れ込まれ、気が付いたときには性交されていた。『やめて』と言ったが『これでお前も俺の女だ』と言われ、抵抗すれば殺されるという恐怖を感じた」と指摘しました。
逮捕当初は容疑を否認していた北川被告。しかし、初公判では法廷でこう語りました。
【北川被告】「公訴事実を認め、争うことはしません。被害者に深刻な被害を与えたことを反省し、謝罪したい」
憔悴しきった様子で謝罪の言葉を口にし、「争わない」姿勢を示した北川被告。
【被害を訴える女性検事】「もっと早く罪を認めてくれていたら、もっと早く被害申告をできて、この経験を過去のものとしてとらえることができて、新しい人生を踏み出すことができた」
■「内心としては相手が抵抗できない状態とは思っていなかった」
被告が起訴内容を争わない姿勢を見せたことで、裁判は量刑を争う展開になるかと思われていましたが、10日開かれた記者会見で事態が一変します。
【中村和洋主任弁護士】「北川さんが第一回公判期日で公訴事実を争わないと答弁していますが、それはそうすることで、事件関係者、検察庁にこれ以上迷惑かけたくないということにありました。
しかし、その後の検察庁に対する組織批判により、北川さんはこのような方針が間違っていたのではないかと悩み、自らの記憶と認識に従って主張することにしました。
北川さんとしては、内心としては相手が抵抗できない状態とは思っていなかったし、その行為を受け入れている、つまり同意があると思っていたと。この点が争いになります」
■弁護側と女性検事側の主張が対立
また、弁護側は事件の翌年、被害を訴えている女性検事側から民事訴訟の訴状案とともに慰謝料として1000万円の支払いを求める書面が届き、支払ったものの、北川被告の逮捕後に返金されたと説明しました。
【中村和洋主任弁護士】「いわゆる示談書はつくられていません。ただ相手方の要求通りの金銭を支払ったので、少なくとも民事の請求に関しては、こちらは要求に応じたと。それでいったん話は終わっているというか、解決したと理解していたと聞いております」
これについて被害を訴えている女性検事は「被告側が支払いたいと申し出た。示談はしていない」と説明して、真っ向から主張が対立しています。
■ 女性検事「どこまで愚弄し、なぶり殺しにすれば気が済むのでしょう」
10日、大阪地裁で行われた協議で、弁護側は、罪状認否の変更と改めて争点や証拠を整理するため「期日間整理手続」を行うことを求めました。会見を受けて、女性検事は次のようにコメントしています。
【女性検事のコメント】「被告人は、私をどこまで愚弄(ぐろう)し、なぶり殺しにすれば気が済むのでしょう。被害者としてとても悲しく、検事としてとても情けないです。被告人がどのように主張しようが、真実は一つです。司法の正義を信じます」
混とんとする裁判の行方。11日、被害を訴えている女性検事も会見を開く予定です。
■被告側「同意があると思っていた」「抗拒不能だったか疑わしい」と無罪主張
大阪地方検察庁の元トップによる部下への性的暴行をめぐる裁判は、今後どのようになっていくのでしょうか。経緯を整理します。
被害を訴える女性検事は、2018年に酒に酔って抵抗できない状態で、北川被告に性的暴行を加えられたと主張しています。
「身も心もボロボロにされ、全てを壊された」と、会見で涙ながらに語っていました。
一方、準強制性交等罪で起訴されている北川健太郎被告。今年10月の初公判で、起訴内容は争わない、謝罪をしたいと発言していました。
しかし10日、北川被告の弁護士によると、「同意があると思っていたため、故意がない」、「抗拒不能だったか疑わしい」。つまり抵抗できない状態だったか疑わしいとして、無罪を主張しました。
■「理解しがたい方針転換に見える」と菊地弁護士
被告の主張が大きく変わったことについて、「newsランナー」コメンテーターの菊地幸夫弁護士は次のように見解を述べました。
【菊地幸夫弁護士】「裁判が始まった後に無罪主張(否認)に転じることは“異例”と言ってもいい。そもそも法律のプロ中のプロ。理解しがたい方針転換に見える。被告は一度自白しているとみられ、裁判では不利な状況といえるか」
大阪大学大学院の安田洋祐教授は、次のように受け止めを話しました。
【安田洋祐教授】「真実を話さなければいけない裁判において、大阪地検のトップだった方が大きく主張を変えたということにも驚いたんですけれども、その理由もちょっと驚いたんです。『検察庁などに迷惑をかけたくない』とか、『検察に対して組織批判があったので主張を変える』と。正義を争う場ではなかったのかというところが、非常に気になりました」
ここからの裁判のポイントはどういったところになるのでしょうか。
【関西テレビ 神崎博報道デスク】「そもそも裁判に至るまでに時間がかかったので、客観的な証拠が少ないです。しかも被告側が否認に転じたので、法廷での両方の証言が一つのポイントになってきます」
(関西テレビ「newsランナー」 2024年12月10日放送)
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