兵庫県宝塚市生まれのイチゴ「宝交早生(ほうこうわせ)」を家庭などの生ごみから作った堆肥(たいひ)を利用して栽培する取り組みが広がりつつある。食品廃棄物の削減や資源循環を考えるのが目的で、大学や企業が市民らと協力。かつて主力品種だった宝交早生が、人間と環境の関わりを伝える新たな役割を果たしている。
11月下旬、市内の高台にある甲子園大キャンパスの菜園実習場で、市立光明小の3年生約30人が四つの畝にイチゴの苗を植えた。場内の別の畝に残った宝交早生の親苗から育った子株だ。植える直前、堆肥を畝に混ぜた。堆肥は、児童が自宅から生ごみを持ち寄り、校内のコンポストで作った。
授業は甲子園大栄養学部の松岡大介准教授が講師となった。「みんなが食べられなかったものを肥料に変えると、植物が吸ってくれます。そして、おいしいイチゴができます。余った食べ物を集めて使うと、どんな良いことがありますか」。そう尋ねると児童から「食品ロスの削減」と答えが返ってきた。
「その通り。ごみが減ると、燃やすものが少なくなるし、運ぶ人も軽くて済むようになるね」。松岡准教授はそう付け加え、二酸化炭素の減少で地球温暖化対策になるとも話した。
児童からは「イチゴについていろいろ知ることができた」「おいしく育ってほしい」などと感想が聞かれた。児童らは学校にも苗を持ち帰り、コンポストの堆肥を使って栽培に励む。
宝交早生の栽培は、甲子園大や百貨店運営会社「エイチ・ツー・オー(H2O)リテイリング」(大阪市)、園芸資材を製造販売する「地球Labo(ラボ)」(同)などが取り組む。
宝交早生が宝塚市内で誕生したことを知り、学生と栽培していた松岡准教授が2023年、食品廃棄物の削減を市民と進める活動を検討していたH2O社員らに話したことから具体化した。地球ラボはイチゴを育てる土作りなどで協力する。
市内では24年8月、家庭の生ごみから堆肥を作った市民が遊歩道「花のみち」の花壇の土に混ぜてニチニチソウやジニアなど約10種類の花を栽培。11月には同じ堆肥で育った甲子園大の宝交早生の苗約70本を商業施設の外壁のプランターに植えた。
松岡准教授は「多くの世代が宝交早生の栽培に関わることで、イチゴが育つ環境を維持する意識が世代を超えて伝わることを期待している。活動の活性化のために特産品開発にも取り組みたい」と話す。地球ラボの上野晴人社長は「楽しんで活動でき、自然と、ごみ全般の減量化など環境配慮への気付きが育っていく。その輪を広げたい」と語る。【土居和弘】
宝交早生
露地栽培用の品種。県農業試験場宝塚分場(当時)で1957年に開発された。それまでの品種より甘みが強く酸味が少なかったため人気が出て、80年代前半には国内の作付面積の5割以上を占める主力品種となった。果皮が軟らかく輸送時に傷みやすいのが難点で、その後に開発された麗紅(れいこう)やとよのかなどに取って変わられた。現在は主に家庭菜園用となっている。
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