皇后雅子さまが61歳の誕生日に合わせ、宮内庁を通じて公表された感想の全文は次の通り。
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今年は、元日に起きた能登半島地震で多くの方が亡くなり、また、多くの方が被災されたことに深く心の痛む年の始まりとなりました。日本の原風景や伝統文化を色濃く残す美しい地域であると同時に、高齢化や人口減少、過疎化の進む半島地域であるという、地理的、社会的状況の中で発生した大きな地震により、道路の寸断によるアクセスの困難さや長く続く断水など、被災された方々が、冬の厳しい寒さの中でどれほど多くの困難とご苦労を抱えながら避難生活を送られていたか、想像するに余りあるものでした。私自身、学生時代に友人との旅行で能登半島を訪れたことがあり、楽しく、大切な思い出の詰まった能登の地で、多くの人々がこのような大きな試練に直面していることに、心が締め付けられる思いが致しました。
状況の少し落ち着いた3月から4月にかけて、お見舞いのために能登の被災地を訪れ、被災された方々が安心して生活できる日が一日でも早く訪れるよう、復興が一歩一歩進んでいくことを心から願いましたが、その復旧・復興への歩みを進める中、9月下旬に、今度は大雨による被害が発生したことにも心が痛みます。
国内の他の各地でも、今年も残念ながら、大雨や台風の被害がありました。能登半島をはじめ、各地の災害で亡くなられた方々とそのご遺族に深く哀悼の意を表します。また、被災された方々のご苦労を思い、心からのお見舞いをお伝えしたいと思います。同時に、厳しい状況の中で、救援・救護活動や、被災された方々への支援、復旧・復興の作業に従事された多くの関係者の皆さんの尽力に、深く敬意と感謝をお伝えしたいと思います。
世界に目を向けても、大雨による被害や山火事、深刻な干ばつなど、地球温暖化に伴うと思われる自然災害が、今年も各地で多発しています。気候変動などの地球規模の環境問題には、年々切迫感が増しているように感じられ、私たちが力を合わせながら、真剣に取り組んでいかなければならない問題の一つであると感じます。7月に第10回太平洋・島サミットに際しての茶会でお会いした首脳の方々からは、海水面の上昇に伴い、太平洋の島しょ国でさまざまな深刻な問題が起きていることや、GEA(地球環境行動会議)国際会議2024でお会いした方々からは、国際的な議論の高まっているプラスチックごみの問題などについても伺い、これらの問題の深刻さを改めて認識しました。
来年の1月には、能登半島地震から1年、そして、阪神淡路大震災から30年の節目を迎えます。当時の被害の大きさを改めて思い起こし、犠牲となられた方々を追悼するとともに、被災された方々への支援や、今後の防災・減災について考え、備えていくことが大切なのではないかと思います。
一方で、この1年も、世界各地での戦争や紛争により、子供を含む数多くの人々の命が失われていることに深い悲しみを覚えます。異なる価値観を尊重し合える寛容な社会と平和な世界を築いていくために、人々が対話を重ねていくことの大切さを感じます。
国内では、物価の上昇などの経済的な状況をはじめ、さまざまな事情により困難を抱えている人も多く、そうした人々の身の上を案じています。
今年6月には、陛下とご一緒に、国賓として英国を訪問することができました。チャールズ3世国王陛下には、ご病気のご治療中にありながら、私たちを温かく迎えてくださり、ホースガーズでの歓迎式典や馬車によるパレード、バッキンガム宮殿での午さん会や晩さん会など、王妃陛下とご一緒にお心のこもった温かいおもてなしをしていただきました。国王王妃両陛下をはじめ、王室の方々と旧交を温めることができたこともうれしいことでした。深く心に残る滞在になりましたことを心からありがたく思い、国王王妃両陛下に重ねて厚く御礼を申し上げたいと思います。
英国滞在中には、日本と英国の交流にさまざまな形で携ってきた幅広い年代の方々に直接お会いしてお話しする中で、両国の友好親善関係が多くの人々の交流を通じて深まってきたことや、英国の人々が日本に対して温かい気持ちを寄せていただいていることを実感し、うれしく思いました。
また、陛下とご一緒に、私にとっては34年ぶりに懐かしいオックスフォード大学を再び訪れることができたことも特別な機会になり、感慨深いものでした。オックスフォード大学のパッテン総長ご夫妻をはじめ、私たちが留学中にご縁のあったコレッジの学長方や、当時お世話になった方々などから温かく迎えていただいたこともとてもうれしいことでしたし、陛下もかつて頂かれた名誉博士号を同大学から授与していただいたことも大変ありがたいことでした。パッテン総長には、荘厳な中にも温かみのある授与式を執り行っていただき、お心遣いに深く感謝しております。懐かしいコレッジの中などを、それぞれのコレッジの学長に案内していただいて、変わらぬ歴史の重みを感じるオックスフォード大学の中を歩くことができたことも大変うれしく、思い出深い滞在になりました。
英国への訪問を準備していただいた日本と英国双方の関係者の皆様の尽力に重ねまして深く感謝いたします。
国内では、地方での公務のために四つの県に足を運びましたが、それぞれの県での行事に出席することができたほか、地域の自然・風土、歴史や文化にも触れ、行く先々で多くの方に温かく迎えていただいたことを大変ありがたく思いました。
今年の夏に開催されたパリ・オリンピック・パラリンピック競技大会では、出場した日本の選手たちが素晴らしい活躍を見せました。それぞれの選手が培ってきた力を尽くして競技に臨む姿や、団体競技では、チームの団結力や選手たちの間の絆が印象に残る大会となったことに感銘を受けました。
また、米国メジャーリーグの大谷翔平選手が、54本塁打、59盗塁を記録し、メジャーリーグ史上初の1シーズン「50(本塁打)-50(盗塁)」を達成し、3度目のMVPに輝きました。ほかの日本人選手たちの活躍も目覚ましく、さまざまな分野で、こうした若い人たちが日々の努力の積み重ねにより新たな世界を切り開いていく姿は、多くの日本の人たちに明るい希望と勇気を与えてくれたものと思います。
今年、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)がノーベル平和賞を受賞することになったことも印象に残りました。来年、戦後80年を迎える中、被爆された方々の痛みや苦しみ、そして長年にわたって活動を続けてこられた方々のご苦労に思いをはせつつ、平和な世界を築いていくために、世界の人々がお互いの理解に努め、力を合わせていくことの大切さを改めて感じています。
皇室においては、先月、三笠宮崇仁親王妃百合子殿下がご長寿を全うされ、薨去(こうきょ)されたことを寂しく思っております。妃殿下には、三笠宮様と共に、長年にわたって私たちを温かく見守っていただきました。平成5年に、皇太子殿下との婚約が内定いたしました後に三笠宮邸にごあいさつに伺い、両殿下で温かくお迎えいただきましたことを懐かしく思い出します。また、日ごろからいろいろと良くしていただいておりましたことに深く感謝し、心から哀悼の意を表します。
上皇上皇后両陛下には、私たちや愛子を温かくお見守りいただき、お導きいただいていることに感謝申し上げたいと思います。上皇后様には、この秋に骨折され、ご案じ申し上げておりましたが、手術が無事にお済みになり、リハビリに取り組んでいらっしゃると伺い、少し安堵(あんど)しております。両陛下にはお体を大切にお過ごしになり、上皇后様にはご順調にご回復になることを心からお祈り申し上げます。
娘の愛子は、3月に学習院大学を卒業し、4月から日本赤十字社の嘱託職員として勤務を始めました。早いもので、先日23歳になりましたことに、時のたつ早さを感じます。職場では、周囲の方々に温かくご指導いただき、仕事についてもやりがいを感じながら励んでいる様子をうれしく思っています。また、今年の3月には、大学卒業に当たって三重県と奈良県を、そして10月には、初めて一人での地方公務として、国民スポーツ大会のために佐賀県を訪問しましたが、各地で多くの方に大変温かく迎えていただいたことを、愛子も私たちも心からありがたく、また、うれしく思っています。愛子には、これからも健康に気を配りつつ、社会人としてさまざまな経験を積みながら、皇族としての務めを果たすべく努めていってほしいと願っています。皆様には、これからも愛子を温かく見守っていただけましたら幸いに存じます。
今年も多くの方に支えていただきながら、こうして無事に誕生日を迎えることができましたことに感謝しつつ、日ごろより皆様から寄せていただいている温かいお気持ちに対し、改めて心から御礼をお伝えしたいと思います。
来年が、日本と世界の人々にとって、明るい希望を持って歩んでいくことのできる年になることを願いつつ、これからも国民の皆様の幸せを祈りながら、できる限りの務めを果たしていくよう努力したいと思っております。
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