人生ゲームやモノポリーなどが知られ、UNO(ウノ)などのカードゲームも含めた「ボードゲーム」が、地域の課題を解決するツールとして三重県内で活用されている。高齢者の健康づくりや環境教育、産業振興へと活用の幅は広がり、従来の「子どものおもちゃ」というイメージにとどまらない役割を果たしている。
「合(お)うとるな。これは違うな」
津市中央公民館で15日にあったボードゲームの教室。参加した70~80代の女性たちが手元のカードの枚数を数える。この日、プレーしたのは紀北町が3月に作った、ごみ分別をテーマにしたカードゲーム「ミライ」。配られたカードの絵を見て、ごみの正しい分別方法を考える。
4人1組でテーブルを囲む。「あんた、順番まだやに」などと冗談を言い合いながらゲームは進む。正解したカードの枚数が多い人が勝ち。参加した山下美代子さん(85)は「競い合わず、みんなとしゃべるのが楽しみで来ている。毎回、違うゲームをするので、わからないことがあっても、わいわいと相談しながらやっています」と話す。
元々は高齢者向けの体操教室で、3年ほど前からボードゲームを「認知症対策」の一環として取り入れる。月2回の開催日に16人ほどが集まる。主催する「健康体操 百寿グループ」代表の渡辺美代子さん(76)は「体操だけでは参加者どうしの会話が生まれにくいが、ボードゲームなら話がはずむ。毎回、違ったルールを覚えて挑戦するので『脳トレ』にもなる」と語る。
教室で女性たちがプレーした「ミライ」を作ったのは、紀北町と町の中学生。町はごみ分別方法が変わるのを機に、子どもたちに環境への意識を高めてもらおうと共同で製作した。中学生が試作段階でルールを検証し、カードのイラストを描き、ゲームの名前も付けた。今年度、町内の小中学校の授業でも取り入れる。町環境管理課の担当者は「話を聞いて理解するだけでなく、手を動かして遊んでもらうことで環境や生活習慣を考えてもらえたら」と期待する。
ボードゲームは地域の産業振興にも一役買う。熊野市の林業従事者らでつくる熊野林星会は「セーザイゲーム」を開発した。プレーヤーは製材会社を経営し、品質の良い丸太を競り落として「製材王」を目指す。対象は小学校高学年以上。1セット35万円で商品化し、全国の林業関係の団体などに購入された。製材業を高い精度で疑似体験できることなどが評価され、2023年の「ウッドデザイン賞」の優秀賞を受賞した。
東紀州地域は杉やヒノキなどブランド材の産地だが、丸太の価格は1980年代をピークに下落し、製材所の数も減っている。熊野林星会はゲームをプレーしてもらいつつ、林業の現状を伝える場を各地で開催している。会長で熊野市の製材所「nojimoku(ノジモク)」を経営する野地伸卓さん(44)は、「木工教室や製材所見学を企画してきたが、ゲームを通じて私たちがどんなビジネスをしているのかまで、具体的に伝えられるようになった。ゲームを経験すると、参加者が一生懸命に林業について理解してくれるようになり、反応が違う」と手応えを感じている。
ボードゲームは新型コロナウイルスの感染拡大による「ステイホーム」で世界的に流行した。矢野経済研究所の調査によると国内でボードゲーム関連の市場規模は22年度に112億円の見込みで、18年度比6%増。県内でも津や四日市、亀山などにショップや客がゲームできるカフェがあり、若い世代やファミリー層を中心に人気を集めている。
津市でボードゲームカフェ「サンタス」を運営する津市NPOサポートセンターの川北輝(あきら)さん(44)は、企業や団体から依頼を受け、研修やレクリエーションで目的に合ったボードゲームを提案している。ボードゲームの良さを「会話が生まれること。それから、話術やロジックといった、学校の教科では測られにくい力が花開くこともあること。参加者に合わせてルールを自分たちで変えて、誰でも遊べるようにできること」と話す。
対面でゲームを囲むと自然と会話が生まれる特性から、若者の就労支援などの場でも活用されている。川北さんは「『子どものおもちゃ』というイメージを超えて、コミュニケーションのきっかけとして有効だということが、県内でも徐々に知られつつある。ボードゲームを楽しみに、誰でも気軽に集まれる、新しい縁側のような場所を作りたい」と話す。【久野華代】
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