緊急地震速報のチャイム音の楽譜

 最大震度5弱以上の地震が予測された際、NHKがテレビやラジオで流す緊急地震速報のチャイム音「チャラン チャラン」という旋律。騒がしい場所でもくっきりと聞こえ、恐ろしく感じるのはなぜだろうか。

 チャイム音を作ったのは「福祉工学」を研究する東京大名誉教授の伊福部達さん(78)。ゴジラのテーマの作曲者として知られる故・伊福部昭さんのおいに当たる。

 伊福部さんによると、緊急地震速報のチャイムには、音程が短い時間で急激に変わる旋律が使われている。音は振動として伝わり、耳の奥で振動が電気信号に変換され脳に伝わる。この経路で音の変化を抽出する機能が働いているため、雑音の中でも、聴力が衰えても聞き取りやすいという。

 例えば「キャーッ」という悲鳴や赤ちゃんの泣き声、雌ザルが雄ザルを引きつけるために出す鳴き声もそうした音の一種で、「FM音」と呼ばれるという。「哺乳類では、FM音が危険を知らせる刺激として働いている」と伊福部さんは説明する。

 伊福部さんは2007年にNHKからチャイム音作成の依頼を受け、緊急性を感じるか▽不快感や不安感を与えないか▽騒音下でも聞き取りやすいか▽軽度の聴覚障害者でも聞き取れるか――などを不可欠の条件とした。そして、この条件を満たす旋律として、大学院時代に研究したFM音を思いついた。

緊急地震速報のチャイム音を作った東京大名誉教授の伊福部達さん=本人提供

 「単なるブザー音よりもメッセージ性がある音楽がいい」と、叔父の昭さんが手がけた交響曲「シンフォニア・タプカーラ」の第3楽章の最初の和音に着目。キーを変えると「ド・ミ・ソ・シ♭・レ♯」という和音になり、「レ♯」が緊張感を与えていたことから、この和音をベースにチャイム音を作ることにした。

 最終的に5候補に絞り、先天性の重度難聴者や加齢性難聴者、子どもや大人を含む19人を対象に評価実験を行い、不協和音を含む現在のチャイム音に決まった。

 タプカーラとはアイヌ語で「立って踊る」という意味だ。「立ち上がって避難する。チャイム音にぴったりでしたね」と伊福部さんは語る。【菅沼舞】

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