亡くなった人に思いを伝えようと岩手県大槌町に設置されている電話ボックス「風の電話」を10月17日、イギリス人の作家の男性が訪れました。
2年前に弟が自殺した経験を持つこの男性がどんな思いを伝えたのか取材しました。

10月17日、三陸の沿岸を歩く一人の男性がいました。
イギリス人の作家でセラピストとしても活動しているジュリアン・セジウィックさん58歳です。

ジュリアン・セジウィックさん
「毎日25km30km歩いています。足がちょっと痛い」

ジュリアンさんは宮城から岩手の沿岸300kmの道のりを様々な人に出会いながら歩いて旅していました。

ジュリアン・セジウィックさん
「恐ろしい出来事(震災)が起きて、難しい話を聞いたけど、この景色大好きね。人、大好き」

本の執筆のため東日本大震災の被災地をたびたび訪れてきたジュリアンさん。
きっかけは友人が福島県に住んでいたことでした。

ジュリアン・セジウィックさん
「大震災の後毎日毎日メールをもらって、放射線について、地震について、だんだんアイデア・ストーリーが湧いてきた」

6年前、南相馬市を訪れ被災した人たちとふれあったジュリアンさんは、その体験をもとに2021年「TSUNAMI GIRL」という本を出版しました。

友人の漫画家と作り上げたこの本は、津波で祖父を亡くすを経験をした15歳の少女が困難と向き合う姿を描いたもので、イギリスで権威ある児童文学賞「カーネギー賞」の最終選考にも残りました。

「TSUNAMI GIRL」には思春期の子どもたちに生きる力をもたらしたいとの願いが込められています。

ジュリアン・セジウィックさん
「若い人は不安がいっぱい。大震災の生存者の話、つらい出来事について教えたら、きっとイギリスの生徒たちは『大丈夫、僕の問題は大丈夫』と思う」

岩手を初めて訪れたのは2年前。特に印象に残った場所が今回の旅の目的地となっていました。

~ジュリアン・セジウィックさんのSNSより~
「世界中で一番好きな場所の一つ『ホウライカン』に到着。素敵な友達で津波サバイバーのAkikoさんに会う」

訪れたのは釜石市の旅館・宝来館。語り部女将の岩崎昭子さんが出迎えました。
岩崎さんは津波に飲まれながら九死に一生を得た経験の持ち主です。
身近な人を亡くした悲しみを抱えながらも宿を切り盛りし、体験を伝える活動を続けてきました。

ジュリアン・セジウィックさん
「昭子さんの話を聞きました。毎日毎日自分のトラウマについて話しています。強い心がある」

宝来館 語り部女将 岩崎昭子さん
「宿をやっていてよかったなと、つくづくジュリアンと出会って思う。分かり合える」

ジュリアンさんは普段「TSUNAMI GIRL」の本を携えてヨーロッパ各国の学校を訪れ、岩崎さんら被災者から得た学びを生徒に伝える活動をしています。

ジュリアン・セジウィックさん
「その回復、その強さはとても役に立つ、イギリスの生徒たちに」

そのジュリアンさんは2年前の岩手の旅から帰国した直後、深い悲しみに見舞われました。
2歳年下の弟で同じ作家として活動していたマークスさんを亡くしたのです。

ジュリアン・セジウィックさん
「自殺しました。彼は3回結婚、3回離婚。怒りの問題があって精神病になってしまった。悲しい・グリーフ・怖さ・怒り・罪悪感。たくさん罪悪感がありますね」

マークスさんが亡くなった直後ジュリアンさんの頭に浮かんだものがありました。

ジュリアン・セジウィックさん
「(亡くなった)次の日最初に気づいたことは、『あ、風の電話に行かなきゃ』」

「風の電話」、亡くなった人に思いを届けようと大槌町に設置されている電話ボックス。被災地を訪れるうちその存在を知ったのです。

その「風の電話」を今回の最大の目的地としていたジュリアンさんは、一人の男性に出会いました。
佐々木格さん(79)、震災の前の年、いとこが亡くなったことをきっかけにこの風の電話を設置した人物です。

佐々木格さん
「今生きている方が亡くなった方に思いを届ける。あの世とこの世をつなげるという。どうぞゆっくりとお話してください」

「風の電話」でジュリアン・セジウィックさんは…
「Hello、brother まだ寂しい。本当にごめんなさい。僕も最善を尽くしたけど及ばなかった。申し訳ありません。まだまだ愛している。気を付けてね」

「泣きそう」といいながら風の電話から外に出てきたジュリアンさん。

Q:どんなことを伝えた?
ジュリアン・セジウィックさん
「いつもありがとうですね。人間関係は難しいけど、一番大切なこと、みんなはつながっている」

ジュリアンさんは佐々木さんに何度も感謝の言葉を伝えました。

ジュリアン・セジウィックさん
「僕にとってこの出会いは宝物です。ありがとうございます」

佐々木格さん
「ぜひまた家族で来てください」

震災の深い悲しみを経験した人たちが今を生きる三陸。
その地を訪れることで自らの喪失体験と向き合い心を整えたジュリアンさん。今後も震災をテーマに本を書くつもりです。

ジュリアン・セジウィックさん
「一番大切なポイントは“希望”がある。いつもどこでも希望を見つけることができると思う。ノンフィクションのプロジェクト、この東北の大震災の話について書きたい」

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