衆院選では立憲民主党など多くの政党が選択的夫婦別姓制度の導入を公約に掲げたが、自民党は賛否を明記しなかった。その自民党は大幅に議席を減らした。今後厳しい政権運営を迫られる中、注目されるのが党内で是非を議論するワーキングチーム(WT)だ。その進行役である座長はどう考えているのか。早期導入を望む高松、岡山両市の当事者3人の招きに応じ、座長の逢沢一郎衆院議員(岡山1区)が衆院選直前の10月に岡山市での集会に出席し、自身の認識を語った。
「私は両親と同じ姓でいたいし、墓も継ぎたい。でもそれを諦めないと、好きな人と一緒にいさせてもらえない」。10月12日に開かれた集会で、堀田夏菜さん(31)=岡山市=は苦しい胸の内を語った。2023年に結婚。衆院選で本来の名前で投票できないことにも触れて「喪失感にさいなまれ続けている」と話した。夫に「事実婚にしてほしい」と頼んでも「だったら離婚する」と告げられたと明かした。集会では、男女7人がそれぞれ逢沢氏に思いを訴えた。
逢沢氏は「多様な生き方を認める社会を追究していく意味でも大事なテーマだ」と発言。参加者の思いを聞いた後、党内に賛否の意見があることを説明し、「熟議を重ねてコンセンサスを作る努力をしたい。つらさを聞けば聞くほど、人権問題に関わってくると感じる」と述べた。
更に、制度は別姓を強いるのではなく希望する人が選ぶのであることを踏まえ、「導入すると日本の大切なものが壊れてしまうと懸念する人たちには『決してそうではない』と説明する必要があるかもしれない」と話した。
選択的夫婦別姓制度が実現すれば、希望する夫婦は結婚後もそれぞれの姓でいられるようになる。法務省の法制審議会は1996年、制度導入を盛り込んだ民法改正を答申した。しかし自民党の保守系議員らが「家族の一体感を損なう」などと主張し、法案提出が見送られてきた。
自民党内では2021年、賛成派と反対・慎重派の二つの議員連盟が発足した。WTも同時期に設置されたが、双方が主張を繰り返す場となり、数回の議論後に中断していた。
この状態を変えたのは経団連だった。夫婦同姓を法律で義務づけているのは世界で日本だけで、旧姓を通称として使う日本独特の仕組みを、海外では「企業にとってビジネス上のリスク」などと指摘する提言を6月に公表した。これを受け自民党はWT再開を決め、新たな座長に逢沢氏を選んだ。
逢沢氏の集会への出席は、制度の法制化を目指す一般社団法人「あすには」(東京都)メンバーの堀田さん、松川絵里さん(44)=岡山市、山下紀子さん(51)=高松市=の3人が直接依頼し、実現した。松川さんは集会終了後「逢沢さんは立場上、賛否は明言しなかったが、党内を導入の方向にまとめてくれると信じている」と期待していた。
山下さんは集会には参加しなかったが、毎日新聞の取材に「逢沢さんは座長として、生きづらさを感じる当事者の声を聞く必要があると考え、会ってくれたのだと思う。WTが再開されたら、議員だけで議論せずに、当事者を必ず呼んでほしい」と話した。
毎日新聞が実施した衆院選全候補者アンケートで当選者分を集計したところ、選択的夫婦別姓制度の導入について、自民党は反対33%▽賛成31%▽無回答31%――で賛否が拮抗(きっこう)していた。石破茂首相は9月の総裁選で導入に前向きな姿勢を示したが、10月7日の衆院本会議では「さまざまな意見がある」として持論を封印した。【佐々木雅彦】
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