大阪府警富田林署千早駐在所の生駒裕巡査部長=同駐在で2024年8月2日午前10時47分、斉藤朋恵撮影

 大阪府と奈良県にまたがる金剛山(標高1125メートル)のふもとで、自身も大の山好きの警察官が働いている。府警富田林署千早駐在所(千早赤阪村)の巡査部長、生駒裕さん(45)。初心者でも楽しめる低山とはいえ、思わぬ危険が潜んでいることもある。紅葉の季節を迎えて大勢の人出が予想されるが、安全に山を楽しんでほしいと訴える。

 「高齢の男性が動けなくなっている」。5月3日夜7時ごろ、駐在所の内線が鳴った。春に千早駐在所に単身で赴任して1カ月が過ぎたこの日、堺市の自宅から家族を初めて招いて夕食を囲んでいた。ヘリで負傷者を搬送するのに使う器具や無線機は、いつでも近くに置いてある。それらを手に取り、すぐに登山口へ向かった

動けなくなった高齢男性を背負って救助した当時の様子を語る、大阪府警富田林署千早駐在所の生駒裕巡査部長=大阪府千早赤阪村千早で2024年8月2日午前11時12分、斉藤朋恵撮影

 娘と登山に訪れていた80代の男性は、下山中に疲労で身動きが取れなくなり、先に娘が下りて通報していた。消防のレスキュー隊の準備が整う前に、まずは生駒さん1人で捜索に出ることになった。

 捜していた男性は、真っ暗な登山道の2合目付近で座り込んでいた。生駒さんのヘッドライトの光に気づき、「ここです」と助けを求めた。男性にけがはなかったが、足腰は立たない様子だった。生駒さんは男性の氏名や持病の有無を確認し、背負って降りることに。大人を背負いながら丸太が敷かれた階段を降りるのは容易ではなかった。それでも、申し訳なさそうな男性に「何年ぶりに来はったんですか」などと声をかけ、不安を和ませた。

 15分ほど背負い、安全な場所で救急隊に男性を引き渡した。久しぶりに親子で金剛山に来たという男性。体調が良かったため予定を変更して頂上まで登り、帰りに体力が限界を迎えてしまったようだった。健康観察を終えて車で帰宅する前、男性の娘が駆け寄ってお礼をしてきた。また山を楽しんでほしいから、こう声を掛けた。「元気になったら、遊びに来てくださいね」

 元々は凶悪犯罪を解決する捜査1課の刑事に憧れていた。しかし、機動隊時代のレンジャー訓練で登山に興味を持ち、魅力にどっぷりとはまった。忙しい勤務の合間を縫い、金剛山や和泉市の槙尾山(標高600メートル)などに登った。山に関わる仕事がしたいとの思いが強まり、山間部の駐在所勤務を希望。念願かなって今春、千早駐在所に配属された。

 生駒さんは、救助に備えて体力を維持するため、今も週に1、2回は山頂に登る。これまでも夜間の山中を約6時間歩いて尾根から滑落した男性を救助するなど、人命救助に携わる。

 冒険心やチャレンジ精神をかき立てられるところが登山の魅力と語る生駒さん。山での安全を守る立場から、こう訴える。「何より大事なのは事前の情報収集。ただ、万全の準備をしても不測の事態は起きる。そんなときは、ためらわずに救助要請してください」

人気の金剛山「きっちり準備を」

 大阪市内からアクセスが良く、日帰りできる登山先として人気の金剛山は年間約100万人超が訪れる。独自の登山回数記録システムがあり、繰り返し登るファンも多い。ただ、あなどるなかれ。無理をしてけがをしたり、道に迷ったりするケースは後を絶たない。

 大阪府警富田林署は2024年に入り、9月末までに約10件の遭難に対応した。対応件数はすでに23年から倍増しており、新型コロナウイルス禍が落ち着いて行楽客が増えていることが原因とみられる。

 金剛山での遭難を減らす活動などに取り組んでいる「大阪府山岳連盟」専務理事の石田英行さん(67)は、「気軽に登れる山だが、慣れていない人にとっては危険が多い」と指摘する。

 通常なら1時間半ほどで登頂できる金剛山だが、地元観光協会などが案内している登山道のほかに、「勝手道」と呼ばれる人が踏み分けてできた道が無数にある。広く知られた登山道では物足りない人がルートをよく知らずに入り込んだり、道に迷って奥へ立ち入ったりして遭難につながることがある。未整備の道は雨などで滑りやすくなり、斜面から滑落する危険もある。

 石田さんは「スニーカーではなく登山靴を履き、水や食料、ヘッドランプなどの備えは必ずしてほしい。登山は自然相手のスポーツ。きっちりと準備して楽しんでほしい」と呼び掛けている。【斉藤朋恵】

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