1月の能登半島地震で捜索活動を行う災害救助犬(左)=1月、石川県珠洲市(NPO法人・災害救助犬ネットワーク提供)

NPO法人・災害救助犬ネットワーク(東京都渋谷区)では平成19年から、犬の優れた嗅覚を災害時などの行方不明者の捜索に役立てるため、全国各地にいる会員を定期的に集めて訓練を行っている。1月の能登半島地震でも発災後すぐに会員らが石川県に向かい、珠洲市で捜索活動に携わった。しかし、行政との連携などの問題点も浮かび上がり、同法人では、災害救助犬の認知度を上げる必要があると痛切に感じている。

人間の数万倍もの嗅覚を持つといわれている犬を使い、地震などの災害時にがれきに挟まって動けない人や意識を失っている人を探し出して救助隊に伝える。犬にとってはかくれんぼの遊び感覚だというが、時間が勝負の災害現場において、有効な手段だという。

日本には災害救助犬の明確な基準が存在していないため、40ほどある団体ごとに運用方法や能力が異なるという。災害救助犬ネットワークでは独自に年に1度認定審査を実施。ハンドラーと呼ばれる犬を扱う人と犬がペアになって合格すれば、実際の被災地など現場で活動を行うことができる。年4回の全体での訓練のほか、自主的に毎日訓練を行う人もいるなど、犬だけでなく人も能力向上に努めている。

合格に1年以上

同団体の認定審査に合格するには1年以上かかり、早いと1歳半から2歳ごろで合格する。

災害救助犬にするには、生後2カ月ごろから半年くらいまで、外に出して人や他の犬がいる環境に置き、物おじしないように育ててから専門的な訓練へと移る。

捜索活動では、自らは安全な場所を判断できない犬がリードなしに自由に動く。訓練では、犬が危険な目に遭うことを防ぐため、服従訓練というハンドラーの横について歩く、伏せる、座る、待つなどの基本的な指示を守れるようにしつける。

服従訓練と並行して行う捜索訓練では要救助者を発見した際にほえたり引っかいたりする告知動作を覚えさせる。また、日常から自然と鼻を使って人を捜索するようにしつけることで、徐々に難度が高い入り組んだ場所でも人がいることが分かるようになっていくという。

被災地では足場が悪く、火災後の焦げたにおいや消防車や救急車のサイレン、ヘリコプターの音など混乱している。そのような状況下でも冷静に捜索活動を行えるには、体力や集中力など高い能力が求められる。同法人によると災害救助犬になれる犬は全体の数%程度だという。

犬の集中持続時間は15分程度と短いため、数頭数人態勢で1チームを組み、捜索現場では交代して活動を行い、2頭以上の反応をもって消防や自衛隊などに知らせる。

ハンドラーの指示に正確に従うようにする服従訓練=10日、川崎市(梶原龍撮影)

3日後にようやく

同団体では、1月の能登半島地震の際、元日夜には5頭9人が青森県から兵庫県までの各地から富山市に向かった。当初は災害救助犬の出動協定を結び、定期的に訓練を共に行っている群馬県渋川市などが入る消防群馬県隊との捜索活動を想定し金沢市内で合流し、待機していた。しかし、道路事情などが理由で共同での捜索ができず、2日の夜に同法人のチームは単独で珠洲市に向けて出発した。

珠洲市方面へは降雨や道路の寸断でなかなか進めず、10時間ほどかけてようやく3日の朝に到着。東日本大震災や熊本地震でも現地に赴いたという同団体理事の古川祥子さん(42)は、「ここまで現地にたどり着けないのは初めてだった」と振り返る。

ようやく捜索活動ができると思ったが、先に到着していた他の災害救助犬を持つ複数の団体や行政との調整が思うようにいかず、3日も捜索活動は行うことができなかった。古川さんは「こんなに犬がいるのになんで投入できないのか」と感じたという。

4日になり初めて捜索活動に加わった。サーモグラフィーで温度感知があるとの情報があり、倒壊した家屋を捜索したが、犬の反応では生体反応はなかった。夜になって遺体が発見されたと聞き、古川さんは「もっと早く行けたら助けられたかもしれない」と、もどかしさを感じた。

5日も自衛隊と捜索活動を行う予定だったが、人命救助から物資輸送へと支援体制が移行したこともあり、珠洲市を離れた。

災害救助犬は行方不明者の発見にたけているため、発災から時間が早ければ早いほど命が救えるが、救出と医療行為は消防などが行うため、単独行動ができない。このため、行政などとの連携が必要不可欠だが、現状では行政との連携が深まっておらず、災害救助犬の活用方法が十分に知られていないという。

古川さんは、「優先的に犬の捜索能力を活用してほしい」と訴えている。(梶原龍)

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