福井市で1986年、中学3年の女子生徒(当時15歳)が殺害された事件の第2次再審請求で、名古屋高裁金沢支部は23日、殺人罪で懲役7年が確定して服役した前川彰司さん(59)について、やり直しの裁判(再審)を認める決定を出した。山田耕司裁判長は有罪とする根拠となった関係者証言の信用性を否定。「捜査機関による誘導など不当な働きかけがあった疑いがある」と述べた。
この事件で前川さんは一貫して関与を否定していた。1、2審で有罪・無罪の判断が分かれ、第1次再審請求でも再審可否の結論が変わるといった複雑な経過をたどっている。
確定判決は、前川さんの知人ら6人が「前川さんの体や衣服に血が付いていた」などと述べた証言が信用できるとし、前川さんが刃物で女子生徒を殺害したと認定した。
今回の再審請求審で、弁護側は検察側から開示された証拠287点を活用。関係者証言の信用性を争い、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠がある」と訴えた。
決定はまず、薬物事件で勾留中に前川さんが関与したと最初に言い出した知人男性について「自らの供述を取引材料にし、保釈や優遇などの利益を図ろうとする態度が顕著だ」と指摘。警察もこの知人から証言を引き出すために飲食させるなどしたうえ、証言の裏付けもないことを踏まえると、「虚偽供述だったことは否定できない」と信用性を認めなかった。
確定判決で、別の関係者がテレビ番組の特定の場面を見て外出し、血の付いた前川さんを見たとする証言についても検討した。事件当日はその場面が放映されなかったことを示す弁護側の新証拠を踏まえ、「警察の誘導により、ありもしない体験が作出された。証言の証明力を減殺し、有罪認定を揺るがすものだ」と指摘した。
容疑者検挙に向けた捜査が行き詰まっていた事情にも言及し、「唯一の情報源だった知人男性の供述に頼り、なりふりかまわず他の関係者を誘導して供述を得ようとしていた疑いが濃厚だ」と批判した。
そのうえで、関係者証言について新旧証拠を総合的に検討した結果、実際に体験した事実を説明したとは評価できないとし、「信用性を認めることは正義にも反し許されず、(前川さんを)犯人と認めることはできない」と結論付けた。
名古屋高検の畑中良彦次席検事は「決定文を子細に検討し、適切に対応したい」との談話を発表。福井県警は「コメントする立場にない」とした。【木島諒子】
決定骨子
・知人男性の証言は自己の利益のためにうそを言い、捜査機関がその証言に基づき、他の関係者を誘導した疑いがある。
・有罪の根拠とされた関係者らの証言は、実際に体験したものとは言えず信用できない。犯人だとする立証がなされていない。
・弁護側提出の新証拠は「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」と言えることから再審を開始する。
福井女子中学生殺害事件
福井市の市営住宅で1986年3月20日、中学3年の女子生徒(当時15歳)が殺害されているのが見つかった。知人らの目撃証言などから前日19日夜に殺害したとして、福井県警は約1年後に前川彰司さんを殺人容疑で逮捕。1審は無罪だったが、逆転有罪とした2審は心神耗弱状態だったとして懲役7年を言い渡し、97年に最高裁で有罪が確定。前川さんが満期出所した後の第1次再審請求では、名古屋高裁金沢支部が目撃証言の信用性を否定するなどして再審開始を認めたが、異議審で名古屋高裁が取り消し、最高裁で2014年に確定した。
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