災害時の救助や物資輸送に使われる緊急輸送道路(緊急道)の橋について会計検査院が耐震補強の状況を抽出調査したところ、その約7割で優先度が十分に考慮されないまま補強工事が行われていたことが判明した。落下を防止する性能や迂回(うかい)路がすでに確保されているにもかかわらず、そうでない橋よりも先に工事が行われたり、そもそも優先度の目安となる重要防災拠点を国や自治体が定めていなかったりしたことが主な要因。検査院は23日、国土交通省に工事の優先順位の決定方針を定めるよう検討を促した。
全国にある緊急道の橋は耐震化率(2022年度末時点)が81%にとどまり、工事の完了には今後数十年を要するとされる。
検査院によると、緊急道の橋について国交省は1995年、阪神大震災(マグニチュード7・3)と同規模の地震が起きても落下しない落橋防止性能を確保した上で、損傷を軽度に抑える橋脚補強工事を行うよう管理者の自治体などに事務連絡を発出。また緊急道の中でも重要な防災拠点同士をつなぐ重要防災路線の橋を特に「優先」している。
検査院の調査は、14の国道事務所と30の自治体が管理する緊急道の橋を抽出して実施。総数2202基のうち、21年度と22年度に補強工事が行われた260基について国交省の事務連絡が考慮されているかどうかなどを確認したところ、約7割に当たる173基で優先順位の決め方に課題が残ることが分かった。
青森と岩手、山口、長野、横浜、浜松の4県2市の計354基は落橋防止機能が無い状態だったのに対し、機能を有する別の22基の補強工事が優先して行われていた。検査院は地震で橋が落下した場合、緊急輸送機能の確保に相当の時間を要するなどと指摘。354基のうち247基を岩手県が占め、山口県が48基で続いた。
調査対象地域全体では、迂回路のある計27基が迂回路のない橋よりも優先されていた。また、重要防災路線よりも先に工事が行われた緊急道の橋が計36基あったほか、そもそも重要防災拠点が定められていないため、優先度を判断できない状態で工事が行われた橋も88基あった。
国交省の担当者は「検査院の指摘を踏まえ、災害に強いネットワークの構築に向けて橋の耐震補強を推進していく」とコメントした。【渡辺暢】
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