特集は台風災害から5年です。堤防が決壊した長野市長沼地区で工務店を営む男性は、この5年、住宅の再建に奔走しつつ。まちづくりにも積極的に参画してきました。辿りついたのは長沼を100年先に残したいという思いです。
■祭りが最高のコミュニティー
長沼神社の秋の例大祭。力強く奉納される獅子舞を住民たちが見つめています。
篠笛を吹く関博之さん(45)。この光景を「長沼らしい」と気に入っています。
関博之さん:
「祭りが最高のコミュニティーだと思ってます。こういう形で、盛大に今年できたことはよかったなと思いますね」
5年前は、この例大祭当日に水害が発生。関さんが長沼を愛する原点となった祭りは、しばらく開催できませんでした。
■故郷が変わり果てた姿に
2019年10月13日未明、台風19号による増水で千曲川の堤防が決壊。
当時、一級建築士として都内で働いていた関さんはすぐに長沼に駆けつけ故郷が変わり果てた姿を目の当たりにしました。
実家も亡き父が営んでいた工務店も被災。
そして、父が手がけた数多くの住宅も。
■地域のために力を尽くす
被害を確認して回る中、関さんは、地域のために力を尽くそうと決心します。
関工務店・関博之さん(2019年):
「やっぱり僕は戻るべきだと。何軒か回る中で、そう言いたいと思っちゃったんですよね。『ぼく戻ります』『安心してくださいって』って」
最初は家族を埼玉に残し避難所や仮設住宅で生活。住民と悩みや不安を分かち合いながら住宅の復旧・再建に突き進んできました。
2020年12月―。
被災から1年2カ月、関さんが修復した地元の味噌蔵・小川醸造場の工場が完成しました。
「復興の象徴になる」と信じて力を尽くしてきた建物です。
小川醸造場・小川泰祐さん:
「だんだん先に向かって歩み出してきているんだっていう実感が湧いてくる。(関さんは)すごく頼りになったし、気持ちもおかげで楽になってきたかな」
関工務店・関博之さん:
「非常に僕もうれしくて。(住民と)共に分かち合えた。このためにやってきたんだと」
2022年4月ー
被災して2年余り。後回しにしていた実家の修復を終え、関さん家族もようやく落ち着いた暮らしに。
父が建てた家が明るく生まれ変わりました。
被災した住宅の復旧・再建は一段落しましたが、関さんは今も依頼を受け、忙しく駆け回っています。
浸水被害で大規模半壊となり、関さんが災害後、最初に建て直した金箱文夫さんの住宅。
長沼地区・金箱文夫さん:
「(関さんに)非常に頑張っていただいて早3年」
この日は依頼のあった一枚板の長机を納めました。材は仏間の床柱と同じ能登の「あすなろ」です。
「あすはヒノキになろう」。名前に込められた意味を気に入り、金箱さんがリクエストしたそうです。
長沼地区・金箱文夫さん:
「(関さんは)いつの間にか懇意で、年は離れてるんですけど、親しくやってもらってるかな」
関工務店・関博之さん:
「当時、いっぱいいっぱいやってたんですけど、金箱さんに『そういう時こそ楽しまなきゃ』と言われて、やってこられた」
■新築の住宅が完成
この夏、災害後、3軒目となる新築の住宅が完成しました。
主の中野史崇さん(29)、琴恵さん(29)夫妻。子どもをのびのびと育てようと3年前、東京から琴恵さんの故郷である長沼に越してきました。
中野さんが関工務店に依頼した決め手はー
中野史崇さん:
「(関さんが担当した)小川さんとか、村の方々のリフォームの中身を見させていただいて、こういうのいいなと」
みそ蔵を営む小川さんの住宅。小川さんは工場だけでなく住宅も被災し関さんにリフォームを依頼していました。
新築を検討していた中野さん夫婦に修復を終えた自宅を披露し関さんの仕事ぶりを見てもらいました。
小川泰祐さん(2023年2月):
「関さんが『杉板もいい』って言うから」
中野史崇さん:
「これ、杉なんだ」
中野さん夫婦は関さんの細やかな仕事を信頼し、建築を依頼しました。
中野史崇さん(2024年、夏):
「家族が部屋にこもるんじゃなくて、ここで団らんできるようにしたいと」
関工務店・関博之さん:
「(新築後)お伺いしてここ座ったら、『落ち着くね』って言っちゃいました」
中野史崇さん:
「関さんが建てたんですよって」
関博之さん:
「あ、俺(笑)」
■長沼の将来を考える活動
関さんは、新たに長沼の住民となった中野さんを地域の活動にも誘いました。
関博之さん:
「期待の星ですから」
中野史崇さん:
「ハードルが(笑)」
それは長沼の将来を考える「まちづくり委員会」。関さんは2024年度から委員長を務めています。
この日は長沼の魅力や移住をPRするホームページの打合せ。
中野史崇さん:
「”歴史系”だと散策路に合わせてマップにポイント付けて、写真を入れると」
仕事でマーケティングや映像制作を手がける中野さんにとっては「得意分野」。
中野史崇さん:
「自分も一員になれてるなって、より実感が湧くというか。根を張っていこうという気持ちが強くなります」
■以前のような活力はまだ…
被災後、減少の一途を辿った長沼の住民。
ようやく下げ止まりの傾向となっていますが、以前のような活力は戻っていません。
そこでまちづくり委員会は移住促進の他、「長沼小の児童を増やす」「観光協会を設立する」などのプロジェクトに取り組んでいます。
2023年から、新たなイベントも開催。子どもの頃の遊びをヒントに、摘果したリンゴを枝の先に刺して遠くに飛ばす「摘果リンゴ飛ばし大会」です。
中野史崇さん:
「コミュニティーがすごいしっかりしてる。消防団活動や獅子舞の活動があったりというので助け合える。ここに移住できたっていうのは、僕の人生にとってすごくよかったなって思います」
■故郷・長沼を100年先へ
10月12日―。
住民が一体となる秋の例大祭。
中野さんは獅子保存会にも所属し初めて「篠笛」を吹きました。
中野史崇さん:
「村が一体化するいいイベントだなと。楽しかったです」
先が見えぬまま復旧に駆け回っていた頃、関さんはこう話していました。
関博之さん(2020年):
「思いがあれば変わっていくんじゃないかな。何か、思い続ければ見つかるんじゃないかなって。まだ見つかってないですけどね」
あの時、見つけられなかったもの。
災害から5年が経ち仲間とまちづくりに取り組む今、関さんは、おぼろげながらそれを思い描けるようになっています。
関博之さん:
「この長沼の、人と人とのつながり、それを100年経っても続けていける地域でありたい。できれば、今と変わらない長沼、みんな一人一人輝く長沼、それを目指したいですね」
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