写真はイメージ=ゲッティ

 愛知県東郷町、岐阜県池田町のトップが25日、相次いで記者会見し辞職を表明した。原因はいずれも職員へのハラスメント。先月に辞職した岐阜県岐南町長も、やはりセクハラが引き金となった。なぜ、こうも相次ぐのか。問題の根幹はどこにあるのか。職場のハラスメント問題に詳しい奥田祥子・近畿大教授(労働政策)に聞いた。【真貝恒平】

 「閉鎖的かつ密室性の高い組織内で、行政トップの不法行為の責任を追及する仕組みが機能していなかった」。奥田教授はこう指摘する。

近畿大の奥田祥子教授=本人提供

 ハラスメント発言や行為を繰り返した首長はもとより、被害者の上司、同僚ら周囲の責任もあるという。岐南町では、セクハラ被害の相談を受けた上司が「(セクハラへの対応は)自衛対応になる」と突き放していたことが明らかになっている。「組織内で唯一無二の権力を持った首長の不法行為を見て見ぬふりをする傍観者の罪も重い。特定の集団内で多数派意見に合わせるように誘導する同調圧力もあり、組織内での自浄作用が欠如していた」

 では、どう対応していけばいいのか。「組織内の相談窓口や労働組合が被害者の訴えに真摯(しんし)に耳を傾けて救済し、適切な調査を行う。ハラスメント行為が事実認定された場合、加害者に対して厳正な処分を下す仕組みづくりが急務」と提言する。

 職員がハラスメントの実態を告発する手段として、しばしばICレコーダーを使った生音声が証拠として活用される。東郷町長のハラスメント行為がマスコミを通じて広く認知されることになったのは、まさにこのケースだった。奥田教授は「被害者は泣き寝入りすることなく、組織内の対応が不十分であれば、行政の相談機関や(労働者が一人でも加入できる外部の労働組合)ユニオンに被害を訴える。加害者の言動を日ごろから克明に記録することが重要で、それがハラスメント行為認定のための調査などで自分の身を守ることになる」ともアドバイスした。

 奥田教授によると、職場で近年増えているのが、無意識の思い込みや偏見である「アンコンシャス・バイアス」に起因するハラスメントだという。相手の価値観や考えを理解しようとせず、自分の行動規範や価値観に基づいて、物事の是非や正否を決めつけたり、自分の理想を押しつけたりするケースだ。

 こうしたハラスメントは同質的で権威主義的、排他的な旧来の組織文化の影響を受けた中年期の男性管理職に多いとされるが、女性活躍推進法施行以降、女性管理職もハラスメントの加害者になるケースも増えているという。

 奥田教授は「男女の性別二元論での議論を超え、多様な性を生きる人たちや、障害のある人たち、病気を治療している人たちなど、さまざまな人々が一緒に職場で働いている現状を踏まえ、ハラスメント問題を『人権問題』と捉え直し、一人一人が防止対策と被害者救済に取り組んでいく必要がある」と話す。

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