「ぼくのおかあさんはおつきさまにいる―ひとりじゃないよ―」。こんなタイトルの絵本が完成した。交通事故などで親を亡くした子どもたちが悲しみを打ち明けにくい現実を描き、社会で見守る大切さを訴えている。【小林遥】
制作したのは、一般社団法人「関東交通犯罪遺族の会」(通称・あいの会)。17日にはメンバーが東京都豊島区の同区役所を訪れ、1000冊を寄贈した。区立幼稚園や小中学校に順次配布される。現在は一般販売はしておらず、区立図書館や区民ひろばで閲覧できる。
絵本制作を発案したのは、あいの会代表理事の小沢樹里さん(43)。小沢さんは2008年、交通事故で義理の両親を失った。義理の弟が運転する車に、暴走車が衝突する事故だった。事故後、義理の弟や妹は街中で家族連れの姿を見ると、突然泣き出すことがあったという。
小沢さんは事故を機に、他の遺族と共にあいの会を設立。父親を亡くした子どもが母親に悲しみをぶつけたいのに、母親が悲しむから本心を言えないという現実を目の当たりにした。「苦しんでいても、言葉にできない子どもがいることを伝えたい」と感じた。
絵本の主人公は、交通事故で母親を亡くした男の子。悲しむ父親の前で本音を言えずにいると、月からうさぎが現れ、同じ境遇の子どもがいる場所に連れて行ってくれる。最後は、男の子の心の負担が軽くなるというストーリー。悲嘆にくれる人を支援する「グリーフケア」の重要性にも触れている。
あいの会の副代表理事は、豊島区東池袋で19年に起きた乗用車暴走事故で妻子を亡くした松永拓也さん(38)が務める。事故の慰霊碑の除幕式で、子どもたちが歌を歌ってくれたことへのお返しの意味を込め、豊島区に絵本を寄贈したという。
区役所を訪れた松永さんは「子どもの心情は見落とされがちだ。犯罪被害だけでなく、さまざまな社会問題で苦しむ子どもたちに、一人で苦しまなくてもいいよと伝えたい。絵本が、苦しむ子どもの存在を知ってもらうきっかけになってほしい」と話した。
絵本を読んだ高際みゆき区長は「大人が思っている以上に、子どもたちはいろんなことを考えている。一人でも多くの子どもに読んでもらえるようにしたい」と話した。
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