火災で全焼し、多くの死傷者が出た「中村荘」=北九州市小倉北区で2017年5月8日午前7時14分、本社ヘリから上入来尚撮影

 2017年5月、北九州市小倉北区のアパート「中村荘」が全焼し6人が焼死した火災で、福岡地検小倉支部は17日、現住建造物等放火と住居侵入の容疑で逮捕された元住人の無職、井上浩二容疑者(56)を両罪に加え、殺人と殺人未遂の罪でも福岡地裁小倉支部に起訴した。火を付ければ入居者が死ぬかもしれないという「未必の故意」による殺意があったと判断した。

 起訴状などによると、井上被告は17年5月7日午後11時10分ごろ、小倉北区清水2の中村荘に無施錠の正面玄関から侵入し、1階トイレ前でガスバーナーのようなものを使って可燃物に放火。延べ283平方メートルを全焼させ、入居者の男性6人を殺害した他、重軽傷を負わせた男性5人を含めて8人を殺害しようとしたとしている。

 地検小倉支部は認否を明らかにしていないが、井上被告は逮捕時に「やっていない」と供述。弁護人によると、その後も全面的に否認を続けている。また、放火した場面が映った防犯カメラ映像など井上被告の関与を示す直接的な証拠もないという。

 これに対し福岡県警は、出火前後に現場近くにいた不審な人物を70台以上の防犯カメラ映像をつないで追跡する「リレー捜査」などで井上被告を特定したとされる。燃焼実験の結果や井上被告が逮捕前の任意の捜査に対し、一部のカメラ映像は「自分だ」と認めたことなど複数の状況証拠を集めたとし、地検小倉支部も放火罪などに問えると判断した模様だ。

 一方で動機は明らかになっておらず、関係者によると、殺意の有無については検察内部で最後まで慎重な議論が続いていた。最終的には、極めて短時間のうちに燃え広がり、多数の死者が出た点を重視。その上で井上被告は①火災の約1年前に1カ月ほど中村荘に入居し、建物内の構造や生活実態を把握していた②夜間に築50年以上の木造アパート内に放火すれば死者が出ることを予見できた――といった要素を踏まえ、「未必の故意」に問えると判断したとみられる。

 井上被告の公判は裁判員裁判で審理される見通し。起訴を受け、弁護人は「公判で真実が明らかになるよう活動していく」などとコメントした。【井土映美、河慧琳】

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