宮崎県延岡市で今夏、米軍輸送機オスプレイが複数の日にわたって飛行した。「電柱近くを飛んでいた」「家が揺れるぐらいの低さだった」といった証言が市に寄せられ、かなりの低空で飛行していた可能性がある。なぜ米軍オスプレイが繰り返し延岡市上空に現れたのか。背景として、有事を見据えた米軍の作戦変更を挙げる声もある。
米軍オスプレイは2012年に国内で初めて米軍普天間飛行場に海兵隊機MV22が配備された。日米両政府は当時、低空飛行訓練を実施する場合の高度は500フィート(約150メートル)以上とし、人口密集地などは避けるとした。米軍は操縦士の技量維持のために高度200フィート(約60メートル)の飛行訓練を義務としているが、そうした訓練は国外で実施してきた。
だが、日米両政府は23年7月、米軍の要望を受け、MV22の効率的な運用に必要として、沖縄県を除く山岳地帯での低空飛行訓練時の高度を200フィートに下げることで合意したと発表した。訓練は住宅地などの上空では実施せず、人や物から150メートル以上の距離を保つとしている。延岡市では住宅地上空でMV22の飛行が目撃されているが、当時の詳細な高度や訓練の内容は不明だ。
日米両政府がMV22の訓練高度を見直した背景の一つに、中国の軍事力強化に対する米軍の戦術変更を挙げる声もある。MV22を運用する海兵隊は近年、前線の島しょ部に小規模部隊を分散展開し、ミサイルでけん制して自軍の活動範囲を広げる「遠征前方基地作戦(EABO)」の訓練を進める。MV22は前線へ兵士を輸送する役割を担う。
沖縄国際大の野添文彬教授(国際政治学)は「敵のレーダー網をかいくぐってMV22を前線に展開させるためには低空飛行訓練が必要。米軍にとって、海と山に近い場所が多く、南西諸島に近接した九州は離島を想定した訓練の適地となるだろう」と指摘する。
九州では日米共同訓練などで米軍機が飛来する機会が増えている。野添さんは「九州の沖縄化が進んでいる」とし、「オスプレイの低空飛行は沖縄では日常的になってしまっているが、九州でも今後増える可能性がある。住民の安全を守るためにも、沖縄と九州の人たちが一緒にオスプレイの運用のあり方を考えていくべきだ」と語る。【中里顕】
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