輸血の禁止、ムチによる体罰、脱会者の忌避――。

宗教2世らへのそうした行為を、弁護士らが調査結果として明かすなどし、国内外で人権侵害との批判が出ているキリスト教系新宗教「エホバの証人」。2024年3月、同教団が、こども家庭庁に対して、宗教虐待を禁じるガイドラインを批判する趣旨の文書を提出していたことが分かった。

FNNが入手したエホバの証人がこども家庭庁に提出した文書
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FNNは、こども家庭庁に対して、文書の情報公開請求を実施し、同教団が作成した計776ページもの文書を入手した。専門家は教団の動きを「国を牽制する狙いがあったのでは」と指摘している。

浮上した宗教2世問題

宗教2世問題は、2022年7月の安倍晋三元首相銃撃事件を機に注目を集めてきた。

国は宗教2世らへのヒアリングなどを通じて、同年末に「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」を公開。児童虐待防止法が定める、①身体的虐待、②性的虐待、③ネグレクト、④心理的虐待の4類型で、虐待を禁止するガイドラインを定めた。

安倍元首相を銃撃した山上徹也被告は宗教2世だった

さらに、こども家庭庁はQ&Aをふまえ、全国の児童相談所などに宗教法人を特定しない形で実態調査を行った。今年4月に公表された結果によると、「医師が必要と判断した輸血を行わせない」「言葉や映像などで恐怖をあおり、こども本人の自由な意思決定を阻害」「宣教活動への参加などで、養育を著しく怠る」などのケースが複数確認されたという。

突如届いた776ページの「日本政府への提出書」

そんな中、実態調査に前後する2024年3月、同教団がこども家庭庁などに、Q&Aを批判する趣旨の文書を送付していたことが分かった。

エホバの証人は「Q&A」を批判する文書を送付していた

FNNは2024年6月、こども家庭庁に情報公開請求を実施。9月に文書が公開された。

文書のタイトルは「エホバの証人 家族を愛し、深く気遣う人々 日本政府への提出書」。枚数は計776ページにおよび、厚さは約7センチにもなった。

公開された文書の大半は黒塗りだった

しかし、公開された文書の中身は、情報公開法における「当該法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」だとして、一部を除き、ほぼ全ページが「黒塗り」の状態だった。

一方、その後の関係者への取材で、文書が提出された経緯や、文書の要旨が判明した。

関係者によると、2024年3月、こども家庭庁虐待防止対策課に、同教団の担当者から「面会したい」との連絡があった。同課員が面会は控える旨を返答すると、後日、担当者がアポなしで文書を持参するとともに、文書が郵送されてきたという。

教団関係者が訪問したという

文書には、教団内部での宗教を背景とした虐待の存在を否定しつつ、憲法が保障する信教の自由に触れた上、Q&Aへの批判などが記載されていた。Q&Aの作成過程に瑕疵があるとして、「検討委員会のメンバー構成に偏りがあった」「作成に約3週間しか掛けられていない」などと列挙。学者らの意見書なども添えてあった。

その上で、「Q&Aの公表を機に、教団関係者へのヘイトクライムが7倍以上に増えた」「Q&Aがヘイトクライムを正当化する根拠となっている」などとして、政府から独立した専門家にQ&Aの見直しを行わせるべきなどという主張が記載されていたという。

背景に「解散命令請求」国を牽制か

こうした教団の動きについて、Q&Aの作成に携わり、宗教2世問題などに詳しい立正大学の西田公昭教授(社会心理学)は、「背景に、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)への解散命令請求に対する懸念があるのではないか」と指摘する。

宗教2世問題などに詳しい立正大学の西田公昭教授(社会心理学)

旧統一教会をめぐっては、国が昨年10月、東京地裁に教団への解散命令を請求し、今も審理が続いている。「Q&A策定や実態調査などの一連の動きの中で、エホバの証人内での虐待が可視化されることで、解散命令請求が自らにも飛び火する可能性を危惧したと考えられる。そうした動きに対して『戦う』と、国を牽制したかったのだろう」

弁護士は「表面的には従うように見せ、裏では当局に批判をする」と指摘

「エホバの証人問題支援弁護団」の田中広太郎弁護士は、教団が2023年5月に発出したプレスリリースに触れた。プレスリリースでは、Q&Aについて全ての信者に周知するなどとして、「こども家庭庁と喜んで協力したい」としていた。田中弁護士は、「表面的には従うように見せ、裏では当局に批判をするという姿勢が見え透いている」と指摘した。

エホバの証人以外では…

この文書について、エホバの証人・日本支部に問い合わせたが、「情報を提供する報道機関について、当方で判断させていただいております。それで今回、御社の取材への回答は控えさせていただきます」として、回答は得られなかった。

また、FNNは、別の宗教法人が同様にQ&Aを批判する文書を、こども家庭庁に対して提出しているかどうか確認するため情報公開請求をしたが、そうした例はエホバの証人以外では確認できなかった。

国連人権理事会の特別報告者が「Q&A」に懸念を示した

Q&Aをめぐっては2024年4月、国連人権理事会の特別報告者が日本政府に対して、「Q&Aがヘイトクライムにつながった」などとして懸念を示す通達を送付している。一方で、日本政府は6月に、「たとえQ&Aがヘイトクライムなどを正当化するために使われたとしても、政策の意図とは関係なく極めて遺憾だ」などと回答している。

守られるべき子どもらの人権と、憲法が保障している信教の自由。両者の狭間は容易に埋められるものではないだろう。しかし宗教2世らは、その狭間で宙ぶらりんとなったままだ。そうした苦しみに、どのように向き合うべきかが問われている。
【執筆:フジテレビ社会部記者 松岡紳顕】

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