塚田川河口から海に流れ出て堆積(たいせき)した土砂の上で、棒を手に一列に並んで安否不明者を捜索する消防隊員ら=石川県輪島市で2024年10月1日午前9時10分、手塚耕一郎撮影

 石川県の能登半島北部では1日、元日の大地震から9カ月を迎えた。この日、大雨特別警報が出された9月21日の豪雨により新たに1人の遺体が確認され、死者は13人となった。

 県警などによると、輪島市の海岸で見つかっていた遺体は、同市久手川(ふてがわ)町の前川政二さん(80)と確認されたという。

 一方、所在が分からず連絡が取れない安否不明者も輪島市に1日朝までに3人いて、捜索活動が続いた。

 その中で、9月30日に福井県坂井市の福井港から西へ約40キロ沖の海上で女性の遺体が見つかった。福井海上保安署によると、着衣のジャージーのタグには手書きで「喜三」と記されていた。

 安否不明者の中には中学3年生の喜三翼音(きそはのん)さん(14)がおり、県警などは豪雨との関連を調べている。

 父鷹也さん(42)は1日午後、石川県警輪島署で遺体の衣服を写真で確認し「娘の服で間違いない」と話した。

 翼音さんが暮らしていた久手川町では9月21日朝、豪雨の影響で塚田川があふれた。

 家族は外出中で、翼音さんは1人で川沿いの自宅にいた。午前9時40分ごろ、知人から塚田川が氾濫していると連絡があり、鷹也さんは翼音さんと無料通信アプリ「LINE(ライン)」で通話した。

 翼音さんは、2階の部屋の戸も開かず「出られない」と訴えたという。

 午前9時52分に話した後にも翼音さんから着信があったが、鷹也さんは他の電話で出られなかった。午前10時6分にかけ直したがつながらず、鷹也さんは「この数分で流されたのだと思う」と振り返る。

 電話でのやりとりで、鷹也さんは「もし家が流されたら、半袖半ズボンで肌が見えているとけがの恐れがある」と思い、「長袖、長ズボンを着てくれ」と頼んだという。

 安否が分からないまま時間だけが過ぎた。鷹也さんは一日一日「見つかってほしい。一生懸命、捜索している方々を信じて絶対見つけてくれるだろう」と思いながら過ごした。

 だが、署で見せられた衣類の写真は、半袖のTシャツと黒っぽいスエット、2着の長ズボンだった。スエットにはスマホのオンラインゲーム「モンスターストライク」のキャラクターが描かれていた。

 鷹也さんはそれを見てすぐに「間違いない」と思った。スエットは1年ほど前、鷹也さんが翼音さんから「いらないなら、ちょうだい」と言われて、あげたものだった。

 素直で優しい翼音さんだが、思春期を迎えて鷹也さんには反抗的になった時もあったという。

 だが、鷹也さんは写真を確認し、下は長ズボンに長ズボンを、上は半袖に長袖を重ね着していたと分かった。

 「僕が電話で言ったことを、守ってくれていたみたいで、長袖と長ズボンを着ていました。僕の……、言うことを……、聞いてくれたんだと……、思いました」と涙ぐみながら語った。

 福井沖で見つかった遺体は、福井県警がDNA型鑑定をするなどして、翼音さんかどうか調べる。その後、鷹也さんは翼音さんと対面する予定だ。「本当に見つかってくれて良かった。会ったら『お帰り』と声を掛けたいです」【国本ようこ】

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