伊豆諸島の鳥島東方海域で起きた海上自衛隊SH60K哨戒ヘリコプターの墜落事故では、司令官が部隊の戦術技量を確認する「訓練査閲」が行われていた。墜落した2機は情報共有のための通信システム「僚機間リンク」をつなげていなかったが、査閲で与えられた複雑な設定に対応するためだったとみられる。電波の発出を最小限に抑えた隠密行動を夜間に徹底していた可能性もある。こうした積み重ねが世界に誇る海自の対潜能力を支えている。(市岡豊大)
「実際に能力があるかないか検証を行うので、隊員としては十分に気概を持って臨んでいるのは間違いない」
海自トップの酒井良幕僚長は23日の記者会見で訓練査閲についてこう述べた。数年に1回、日頃の訓練の総合力が試されるからだ。
事故機は敵に見立てた潜水艦を探知、追尾する「対潜戦」を3機1チームで行っていたが、訓練査閲で複雑な条件設定がされていたとみられる。
対潜戦では海に投じた音波探知装置(ソナー)で潜水艦の方向を把握する方法のほか、潜水艦が発するわずかな地磁気の乱れを検知する磁気探知装置(MAD)を使う方法もある。対潜戦の中で2機は別々の任務を帯びていた可能性がある。
哨戒ヘリの通信装備には僚機間リンクのほか、通常のレーダーや自機の情報を伝える2次レーダー、艦艇との間で情報共有する「戦術データリンク」などがある。僚機間リンクをつなげれば異常接近した場合に警報音が鳴るが、レーダー情報を基に設定する装置でも警報音は鳴る。
そこで「電子戦」を想定し、通信を制限した環境だった可能性もある。電子戦は強力な電磁波で通信を妨害したり、防護したりする軍事活動。艦艇や航空機ごとに異なる電波を収集、分析して効果的な攻撃を行う。
海自関係者によると、場合によってはレーダーの出力を最小限に抑えることもある。夜間の隠密行動で頼みの綱は見張りの目視しかなくなる。
ただ、訓練査閲で複雑な状況設定がされても訓練経験のない行動はしない。ある哨戒ヘリの乗員経験者は「厳しい状況下だったのは間違いないが、どんな場合も目視確認などの基本動作を行っていれば異常接近することはないはずだ」と話す。
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