西大寺(奈良市)で出土した奈良時代の製塩土器から、海水を煮詰めて塩を作った際に混ざる「にがり」が検出されたことが奈良文化財研究所の研究で分かった。にがりと製塩土器の組み合わせは一見当たり前に思えるが、これまで検出されたことはなかった。しかも、出土した製塩土器でも、にがりがたまる底部分の破片だけほとんど見つかっていないという。その理由とは――?
にがりは海水中の塩化カルシウムや硫酸ナトリウムなどからなる成分。海塩は古代から若狭(福井県)や播磨(兵庫県)、紀伊(和歌山県)などから奈良に運ばれていたことが分かっているが、にがりを落としながら陸路で運ぶ朝廷向けの若狭産と違い、播磨や紀伊からは専用に作られた製塩土器で海路で運ばれたと考えられている。届いた粗塩は土器ごと火にかけ、水分を飛ばすとともににがり成分を土器に吸着させていたとみられるが、こうした土器は平安時代以降はほとんど使われなくなったという。
今回の土器は西大寺食堂(じきどう)院の井戸跡から出土。播磨から運ばれてきた塩の容器とみられ、底部分の破片に付着した白い物質をエックス線を使って元素分析したところ、いずれもにがりの成分である炭酸カルシウムか硫酸カルシウムであると判明した。製塩土器はもみ殻を混ぜて焼き上げるなど、表面のでこぼこや内部の隙間(すきま)が多くできる製法が特徴。こうした部分ににがりが吸着されたことから、1000年以上も溶けずに残っていたと考えられる。
ただ、研究リーダーの神野恵・展示公開活用研究室長によると、これまで出土した製塩土器の中で底部まで見つかったのは1%に満たない。吸着されたにがりの成分で底部だけ風化が進んだとも考えられていたが、周囲の割れ方から意図的に底部のみを別の用途に使った可能性も考えられるという。神野さんは「こんなに底部だけが見つからないのは不自然。人為的に土器を壊して底を集めていたのでは」と推理する。
にがりは豆腐などの食用だけでなく、土間の「たたき」を固める建材として現在でも使われる。神野さんは「当時の人が建材に使うにがりをどう入手していたのかは分かっていない。製塩土器の底を砕いて使っていてもおかしくないはずだ」と指摘している。
今回の検出結果は4日公表の「奈良文化財研究所紀要2024」に掲載している。【稲生陽】
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