神戸市が進める王子公園の再整備に伴い、9月下旬から解体される王子プールの建材にアスベスト(石綿)が含まれていることが判明した。調査した市は「飛散度合いが一番低いレベル」としているが、施設全体の調査は終わっておらず、周辺住民からは不安の声が上がる。近隣には住宅や学校があり、石綿被害に詳しい専門家は「現状の市の説明では不十分だ」と指摘している。
王子プールは1950年、園内に開設。50メートルと25メートル、幼児用のプールとスタンドや管理棟がある。夏季のみの営業のため、大学誘致などに伴う再整備事業で廃止対象となり、9月1日に営業を終えた。計画では来春までに撤去され、跡地は2027年に王子動物園のサバンナゾーンに生まれ変わる。
石綿は吸引すると長期間の潜伏を経て中皮腫や肺がんなどを発症するリスクがある。市は解体に向けて、大気汚染防止法で義務化されている石綿の事前調査を実施。管理棟やスタンドの壁などに石綿を含む建材が使われていたことが分かった。ただ飛散危険性の高い吹き付け材や断熱材の使用はなく、主に石綿が練り固められているボード類など「レベル3」の建材だったという。
市は8月下旬、プールから道を挟んで西隣にある灘区上筒井通1の住民に対する工事の説明会を実施。石綿がある部分は湿らせたりプラスチックシートで覆ったりして、飛散しないよう除去作業を進めると説明した。
ただ、市の配布資料には事前調査の詳細が記載されておらず、住民側から試料採取した箇所や検出された石綿の種類・含有率について質問が出たが、市側は「手元に資料がない」として回答しなかった。詳細な報告書は後日、現場事務所に置いて閲覧できるようするとした。
石綿被害に詳しいNPO法人「ひょうご労働安全衛生センター」の西山和宏事務局長が住民から相談を受けて資料を確認したところ、プールの配管など石綿がよく使われる部分について記載がないことに気付いた。
市によると、配管は事前調査の時点でプールが稼働中だったためチェックできなかった。11月に予定している石綿の除去作業までに専門業者が追加調査するという。西山さんは「本来なら説明会までの間にリスクは全て調べておくべきだ」と話す。
解体時の石綿飛散事故は全国的に散発している。20年には加古川市の中学校施設の解体工事で防止措置が取られずに石綿が飛散。事前調査で石綿の含有が分かっていたが、解体計画に反映されず、市も確認を怠っていた。
今回の説明会に出席した住民は約10人。近隣には小中学校や高校があり、「学校の保護者などもっと広い範囲の住民に声をかけて、説明会を開くべきだ」との声が上がった。
市側は学校には説明済みとし、「法令にのっとって解体すれば石綿は飛散しない」としてこれ以上の説明会は実施しない考えを示した。担当者は「追加調査でレベル3を見直す(上回る)結果が出れば検討したい」と話す。
同公園の再整備を巡っては、一部住民が反対運動を続けており、8月28日には計画の取り消しを求める行政訴訟を起こした。西山さんは「市は再整備を急ぐあまり、形だけの説明会になっている。リスクコミュニケーションの点から石綿の不安を解消し、信頼関係を築くためにはもっと幅広い人を対象に丁寧な説明が必要ではないか」と懸念を示している。【山本真也】
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