人の命を奪い、刑務所に服役している受刑者に、被害者遺族が講師となり、直接話す教育プログラムがあります。
娘を奪われた父親が、投げかけた言葉とは。
■「被害者の視点を取り入れた教育」 受刑者が被害者・遺族の心情に触れる
8月2日、関西テレビは、特別な許可を得て神戸刑務所内で行われた「ある教育プログラム」を取材しました。
受講するのは、殺人や傷害致死などの重大犯罪を犯し、服役している受刑者です。
プログラム名は、「被害者の視点を取り入れた教育」。
被害者や遺族の心情に触れ、犯した罪の大きさを知り、再び罪を犯さない決意を固めさせることが目的です。
この日、講師として招かれたのが、中江美則さん(61)です。
【中江美則さん】「みなさんやったらどうですか?自分の娘殺された。父親にとって一番苦しいことが起きてしまいました。遺族の訴えを、事実を伝えてこそ、重大な意味が理解されると思っています」
中江さんは12年前、突然、娘の命を奪われました。
■命を奪った車 運転の元少年は無免許・居眠り運転も…
2012年、京都府亀岡市で集団登校の列に車が突っ込み児童2人と子供に付き添っていた中江さんの長女・松村幸姫(ゆきひ)さん(当時26歳)が死亡、7人が重軽傷を負いました。
幸姫さんのお腹には、子供がいました。
車を運転していた当時18歳の元少年は無免許のうえ、友人と一晩中遊んだ末の居眠り運転でした。
しかし、過去に無免許運転を繰り返していたことから「車を運転する技能はあった」と判断され、「危険運転」ではなく居眠りという”過失”で起きた事故として、「自動車運転過失致死傷罪」に問われ、実刑判決を受けました。
(懲役5年以上9年以下の不定期刑)
■「被害者遺族は置き去りになった犠牲者」
中江さんは犯罪被害者がおかれた苦しい状況を涙ながらに訴えます。
【中江美則さん】「被害者遺族は、残された犠牲者やと思っている。置き去りにされた犠牲者やって。こんなものあってほしくないもの、全てが僕を囲んでいる」
中江さんの自宅には、幸姫さんの写真がたくさん飾られています。
愛する娘は思い出にならずに、そばにいてくれるものと思っていました。
【中江美則さん】「これが現実なんです。もう避けられない事実です。許せるわけがない。なんかやっていないと、前に歩けないのかなと思っています」
■「新たな被害者を生まないためには、加害者を生まないこと」元受刑者の支援も
「新たな被害者を生まないためには、加害者を生まないこと」。
中江さんは受刑者の再犯率の高さに危機感を抱き、6年前から、元受刑者の更生を支援する活動を始めました。
通学路を守る防犯カメラの設置を、覚醒剤の使用や傷害事件など、犯罪歴がある人たちと一緒に行い、京都刑務所で900人近い受刑者に語りかけたこともありました。
■中江さん「刑に服したことで自分の罪を償ったと思うのは『大きな間違い』」
そして今回、人の命を奪う重大犯罪を犯した受刑者と、近い距離で向き合い、遺族としてのやりきれない思いを伝えました。
【中江美則さん】「強制的に人生を奪われ、遺族は一生苦しみの底で怒り苦しみ生き続ける。夢も希望も一切絶たれ、かたや加害者は希望を持ってこれからを生きることができる」
「法に守られた刑務所で刑に服したことにより、自分の罪を償ったと思うのは、それは『大きな間違い』でしょ」
「被害者遺族の苦しみを知ることで、犯した罪を憎み、二度と犯罪に手を染めないでほしい」
「勝手かもしれないですが、死んでいった人たちを終わらせないで下さい。遺族の叫び、亡き者の叫びを感じて下さい」
■受刑者「加害者側なので想像がつかなかった」 心境に変化も
【受刑者】「私自身も人の命を奪うという加害者の立場であり、自分の中では想像していた以上に、被害者の方がずっと残らずに苦しみ続けていることを改めて認識させられました」
また、別の受刑者に「講話を聞いて心境の変化はあったか」と問うと、言葉に詰まりながら、次のように答えました。
【受刑者】「自分にも被害者さん、ご遺族の方々がおられます。自分は加害者側なので想像がつきませんでした。
傷つきながらも、私たちの前に立って話をして下さったこと、このことは忘れられない、忘れてはいけないと思っています」
受刑者に手を差し伸べることにためらうこともあります。
それでも自分と同じような思いをする人を減らすために訴え続けます。
【中江美則さん】「被害者から遠ざかって、隠れて生活、社会復帰って。
でも犠牲者は苦しみ続けてるんやでってことをしっかりと分かってほしい」
「刑務所出たからといって、罪を償ったと思ってほしくない」
「(出所した)ここからが、いまからが、本当に償う気持ち(の始まり)。
本当に更生したいなら、この瞬間を覚えていてほしい」
(関西テレビ「newsランナー」2024年8月27日放送)
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