今年6月、新潟市の自宅で同居していた90代の母親の遺体を遺棄した罪に問われている男の初公判が、8月20日に新潟地裁で開かれた。

検察に1年2カ月の懲役を求刑された男が語った、死体遺棄を行った理由とは。

■冒頭陳述で「間違っているところはありません」

死体遺棄の罪に問われているのは、新潟市秋葉区の無職小林弘明被告(66)だ。

起訴状などによると、小林被告は6月2日ごろ、自宅で90代の母・ハルノさんが死亡していたのを確認し、その死体を埋葬しなければいけない義務があったのに、6月26日までの間、自宅の1階寝室で死体の上に敷きパッドを掛け、部屋のドアなどにガムテープを貼って放置し、死体を遺棄した罪に問われている。

8月20日に開かれた初公判の冒頭で、起訴内容について尋ねられた小林被告は「間違っているところはありません」と起訴内容を認め、弁護人も「公訴事実は争わない」とした。

■ギャンブル依存の実態…母の年金でボートレースも

一方の検察は、犯行にいたる経緯などについて、まず小林被告に窃盗の罪の前科前歴があり、今年2月に仮出所したと説明。

その後、小林被告は実母のハルノさんと生活していたところ、6月2日に自宅の1階でハルノさんが亡くなっていることを確認したが、葬儀代などが捻出できないと考えたことから1階の寝室に遺体を運び、その上に敷きパッドを掛けて放置。数日後に遺体の腐敗が進んでいることに気づき、虫が湧き出てくるのを防ぐため、寝室のドアなどにガムテープを貼ったという。

さらに、小林被告はハルノさん名義の口座に振り込まれたハルノさんの年金を引き出し、生活費やボートレース代に使ったと説明。

その後、6月26日に、警察官が付近の町内会長へ巡回連絡をしたところ、「ハルノさんの姿を見かけない」などの情報提供があったため、自宅を訪問したところ、白骨化した遺体が発見されたことなどから、この事件は発覚したという。

■「考えなしにギャンブルに使う」親族が語る被告の素顔

検察が要求した証拠調べでは、小林被告の親族への供述調書が読み上げられた。

小林被告の妹の供述調書では、「お金にだらしなく、考えなしでギャンブルに使う。親族からも借金をしていた」と小林被告の金使いの荒さを指摘。さらに「母は小林被告のことをかわいがって甘やかしていた」と生活の様子を説明した。

そして、ハルノさんの死は警察からの連絡を受けて知ったといい、「母のことはしっかりしてくれるだろうと信頼していた。自分が迷惑をかけたのに、なぜ亡くなって放置したのか。母がかわいそうだ。警察から説明され、少ない刑期だと感じたが、重い処罰を与えて欲しい」と話したという。

そして、妹の夫の供述調書では、犯行前の小林被告とハルノさんの様子が浮かび上がってきた。

5月14日の昼ごろに、小林被告の自宅から電話があり、出ると小林被告から「電気代が払えなくて電気を止められた。来月の年金が振り込まれたら返せると思うので6万円を貸してほしい」などと言われたという。

そして妹の夫が「電気代を払った」と被告の自宅に報告に行くと、「ありがとうね」とハルノさんから感謝の言葉があり、その後ハルノさんの姿を見ることはなかったと説明されていた。小林被告に対しては「ハルノさんの身に何かあっても対応してくれるし、連絡してくれると思っていた」と裏切られたような感情があったという。

さらに、小林被告の姉の供述調書では、数年前からすでに連絡は断っているとしたものの、小林被告とは「縁を切る、二度と家族の前に現れないで欲しい。厳しい処罰を望む」と読み上げられた。

■「母の年金を使って生活するしかない」

その後の証拠調べでは、小林被告のボートレースの場外発売場のポイントカードに今年の4月13日から6月18日に利用した履歴が残っていたほか、ハルノさんの口座には、ハルノさんが亡くなった後の6月14、17、18日にお金が引き落とされていた。また、小林被告の借金は100万円を超えていることも説明された。

さらに、逮捕後の取り調べで動機について、「葬儀代を出す余裕はない。ごめん。母が亡くなったことをバレないように過ごすしかない。母の年金を使って生活するしかないんだ」などと話していたという小林被告。

ハルノさんが亡くなった6月2日については、「脱衣所で座り込んでいるところを見つけ、反応がなかったから亡くなっていると思った。脈や体温、呼吸なども確認した」という。その後、寝室に連れて行き、数日後には腐敗臭を気にして、トイレに置いてあった芳香剤を玄関に置いたと話していたことも説明された。

■【被告人質問】誕生日当日に亡くなった母

弁護人請求の証拠調べはなく、被告人質問が行われ、当時の小林被告が置かれていた状況がわかってきた。

弁護人:母親との関係は。
小林被告:人並みの一般的な仲が良い親子。姉妹よりは溺愛されていたと思う。

弁護人:母親は自分にとってどんな存在か。
小林被告:大きな存在だった。

弁護人:亡くなったのはいつか。
小林被告:6月2日の昼ごろ。

弁護人:なぜその日だと覚えているのか。
小林被告:母の誕生日だったから覚えている。

弁護人:当時は何をしていたのか。
小林被告:2階の自分の部屋にいた。午前10時半から11時の間に、風呂が沸いたので母親に風呂に入ることを促した。午後0時半に風呂に入ったのかと思って確認しに1階の降りたら、茶の間にはいなかったので、風呂場を確認したら脱衣所で動かなくなっていて、大変だと思った。

弁護人:どうして母親を脱衣所から寝室に移動させたのか。
小林被告:そのままにしておくのは不憫だと思ったから。その後、脱衣所に戻ったらバスタオルがあったのでかけた。ほぼ裸のままでいるのも不憫なので。

弁護人:本来であればどのようにしなければいけないか。
小林被告:すぐ救急なり警察官に届け出るのが普通。順を追って葬儀なりをしないといけない。

弁護人:そのことはわかっていたのか。
小林被告:わかってはいたが、姉妹と絶縁状態というのもあったし、金銭的にも困っていたので姉妹には相談しなかった。

弁護人:当時はどう思っていたのか。
小林被告:葬儀費用は出せないと思っていたし、姉妹には相談できないと思っていた。

弁護人:今はどう思っているか。
小林被告:姉妹にも、母にも、周りにも大変申し訳なく思っている。

弁護人:母に対してはどんな気持ちか
小林被告:「ごめんね」という感じ。

弁護人:当時に戻れるならどうするか。
小林被告:すぐに連絡して、葬儀などを速やかにやってあげるのが、人間として、息子として当然なのでやってあげたい。

弁護人:それが出来なかったことについてはどう思うか。
小林被告:後悔して、心の中で詫びている。

■母の死後にも続けたギャンブル「借金を清算しようと」

さらに、その後の被告人質問では、周囲に頼れる親族がいなかったことが判明する。

弁護人:姉妹にはお金がなくて相談が出来なかったのか
小林被告:前からギャンブルへの依存で借金を重ねていて、だらしなく金銭的に余裕がない生活だったため。

弁護人:出所してからもギャンブルを続けたのか。
小林被告:そう。亡くなった前後もした。

弁護人:なぜギャンブルをしたのか。
小林被告:借金が残っていたので、それを精算したいと思って。一獲千金みたいな感じでやった。

弁護人:以前もギャンブルでうまくいかず窃盗をしていて、今回もうまくいかないのはわかっていたのではないか。
小林被告:わかってはいたが、借金をなくしたいという思いが強かった。

弁護人:その行動は今思うとどうか。
小林被告:間違った考え方だと思う。

弁護人:今後はギャンブルについてどうするか。
小林被告:完全に一切断とうと思う。今回の事件の引き金になったのでたちたい。

弁護人:やめるためにどうするのか。
小林被告:刑務所に入って礼儀正しい生活をする。依存症の更生施設などを利用して依存症を解消するような生活をする。出所した後もそのようなプログラムをりようしたい。

弁護人:自分の年金についてはどうするか。
小林被告:窓口で相談して手続きを行い、受給できるように準備をする。

弁護人:借金は。
小林被告:今までもらえなかった分がもらえたら、一括で返す。できなければ弁護士に相談して対処する。

■検察は“身勝手な動機”を指摘

続く検察による被告人質問では、身勝手な動機に対する指摘が行われた。

検察:ハルノさんが亡くなって福祉サービスなどに相談しようと思わなかったのか。
小林被告:当時は思わなかったが、今こういう状態になったらそう考える。

検察:ハルノさんの年金を引き出して葬儀代にあてようとは思わなかったのか。
小林被告:そのときは考えなかった。

検察:いったい何に使ったのか。
小林被告:20万円くらい引き出して、借金と光熱費などの細かいものと、食費とギャンブル。

検察:ギャンブルは何に使ったのか。
小林被告:ボートレースに半分、10万円くらい。

検察:これまでも年金を使ったことはあるのか。
小林被告:4月にも年金をギャンブルに使った。

検察:福祉サービスに相談しなかったのは、年金がギャンブルに充てられなくなるからではないのか。
小林被告:そういうことではない。

検察:ギャンブルをやめるというが、意思以外にはどうするのか。
小林被告:借金を一切しない。生活費に関しては早めに払うようにする。

検察:出所後に監督する親族はいるか。
小林被告:いない。

検察:姉妹はどうか。
小林被告:考えられない。

■周囲の人に対し「裏切り行為だと思っている」

そして、最後に裁判官からの被告人質問では、周囲の人を頼らなかった小林被告に厳しい言葉がかけられた。

裁判官:母の死亡を確認したときに埋葬しないといけないとは思っていたのか。
小林被告:はい。

裁判官:普通なら110番通報や119番通報をすると思うが、なぜしなかったのか。
小林被告:その場で蘇生するかもしれないと思って、息などをチェックしていて、すぐ通報しようとは思わなかった。

裁判官:あなたは医療のプロでもないのになぜそのような行動をしたのか。
小林被告:通報は頭にはあったが、葬儀代がないのと、姉妹に頼れないから。

裁判官:姉妹と母は仲良くなかったのか。
小林被告:仲良くなかった。

裁判官:姉妹は母が亡くなったのを知りたいと思わなかったか。
小林被告:思わなかった。

裁判官:ただ、仲が悪かったのに電気代を頼んでいて、絶縁状態ではなかったし、電気代も払ってくれて母にも会いに来ていた。心配している人もいるのにどうしてそう思わなかったのか。
小林被告:そのときに面倒を見ないと言っていたから。

裁判官:母がいたから電気代を払ってくれたと思う。葬儀代を支援してくれる可能性もあったのでは。
小林被告:今はそう思うが、当時はそう思わなかった。

裁判官:そのような周りの人に対してどう思うか。
小林被告:すまなかったと思っている。裏切り行為だと思っている。

■検察は懲役1年2カ月を求刑

直後に行われた論告で、検察側は

・実母の遺体を24日間も放置して白骨化するまでに至らせていて、死者に対する尊厳や社会風俗としての宗教的感情を著しく害してる。

・遺体の上に敷きパッドを掛けて放置した際、遺体の腐敗が進んでいることがわかっていながら、さらにドアなどにガムテープを貼っていて、その態様は悪質である。

・葬儀等の費用が捻出できないことから遺体を遺棄していて、収入がないことから、ハルノさんの年金を引き出して生活費やボートレース代にあてていて、その身勝手な動機に酌量の余地は一切ない。

・ハルノさんの小林被告以外の親族は、法律にのっとった処罰や厳しい処罰を望んでいる。

以上のことから、被告人に有利な事情を考慮しても、刑事責任は重く、被告人に猛省を促し、その規範意識を育てるためには、相当な期間矯正施設に収容し、矯正教育を施すことが必要不可欠であるとして、懲役1年2カ月を求刑した。

■弁護側は情状酌量求める

一方の弁護側は、小林被告は当時適切な対応をとらなかったことを後悔し、反省しており、尊厳を傷つけようとしたり利益を得ようとしたりといった特別不当な動機はない。

また、別案件のように遺体を土の中に埋葬することはなく、悪質だということでもないほか、放置した期間も1カ月と短い。そして、生活費については、出所後に自身の年金を受給する手続きを行い、ギャンブル依存についても、更正プログラムを受ける意思があるなどとして、情状酌量を求めた。

最後に発言の機会を与えられ「特にありません」と口にした小林被告。

判決は9月4日に言い渡される予定だ。

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