「次から次からへと花火を打ち上げる。沿線住民や鉄道ファンも含め、『俺たちは諦めてねえぞ』と意思表示を続けていく。賛同してくれる人をひとりでも多く増やしたい」。JR米坂線の沿線住民らでつくる「JR米坂線開業100周年記念事業実行委員会」の事務局長で、羽前小松駅(山形県川西町)の管理も担う地元のNPO「えき・まちネットこまつ」の理事長、江本一男さん(71)は一日も早い復旧を願う。【神崎修一】
同実行委員会は米坂線の米沢(米沢市)―今泉(長井市)間が2026年で開業100年を迎えるのに向けて、活性化策などを考えようと設立された。活動の軸は、不通区間の早期復旧を求める署名活動だ。23年夏から始まった活動には沿線の置賜(おきたま)農業高校(川西町)の生徒たちも加わった。高校生は羽前小松駅前に立ち、利用客らに協力を求めた。オンラインも使って県内外から賛同者を募り、集まった署名は1万人超。6月には不通区間の早期復旧を求める要望書に署名を添え、JR東日本東北本部(仙台市)へ提出した。
JR東の許可を取り、イベントなどで駅舎を使うことも。同実行委員会は各駅周辺での応援ライブやマルシェを開催し、今後は駅周辺の清掃などを計画する。江本さんは「駅や線路が雑草だらけのままでは、住民は復旧を諦めたと思われてしまう。復旧だけでなく、駅舎を活用することで利活用の促進や路線の活性化につなげることも目的」と積極的だ。
行政も住民の思いを後押しする。山形県は31日、運休中の小国駅前広場を使ったイベント「米坂線復活絆まつり」を初開催する。ご当地グルメの販売や応援ソングの披露、蒸気機関車の転車台見学ツアーなど魅力を発信する機会にするつもりだ。置賜総合支庁連携支援室の本山裕司室長補佐は「復旧に向けた機運醸成につなげ、沿線市町村の連携も深めたい」と説明する。
新潟側の危機感も同じだ。村上市の住民らは23年11月「米坂線早期復旧と地域活性化を考える会」を結成。住民を集めた勉強会を開催するとともに、署名活動も始め、7月までに約4000人分を集めた。住民の目に触れる機会を増やそうと復旧を求めるのぼり旗を独自に作り、坂町駅(村上市)周辺などに掲げている。
事務局長の森川信夫さん(82)は元教員で、関川村の中学校に勤務していた当時、米坂線で通勤するなど思い入れは深い。「自分たちの世代はもう利用できるかは分からない。孫たちの世代のためにも何としても鉄道を復旧させて、過疎化が進む地域を活性化させたい」と訴える。国への働きかけも重要だが、新潟は地元議員の関心が薄いのが気がかりだという。JR米坂線の沿線自治体でつくる「米坂線整備促進期成同盟会」に山形の議員は出席しているが、新潟ではそういう動きはみられない。
復旧には地域が一丸となった活動が欠かせない。森川さんは「高校生が参加する署名活動など山形側の動きが先行する。山形の動きを学びながら、連携も深めていきたい」
被災したローカル線
2010年に土砂崩れで列車が脱線するなどした岩泉線(岩手)は復旧されないまま、JR東日本が14年に廃線としてバス運行に代わった。16年の台風で被災した根室線(北海道)は、運休区間が24年4月にバス転換した。11年に東日本大震災の津波で被災した岩手、宮城両県の大船渡・気仙沼線の運休区間は、12~13年にBRT(バス高速輸送システム)で復旧。11年の豪雨で橋が流出した福島と新潟を結ぶ只見線は、22年に全線で運行が再開した。
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