重症心身障害児や医療的ケア児を対象にした「放課後等デイサービス」(放デイ)が、名古屋市守山区に今夏オープンした。運営する坂野公彦さん(48)、友美さん(47)夫妻は、重い障害のある長女を4歳で亡くしている。「みんな同じ命。障害のある子もその家族も、自然と笑顔になれる場でありたい」
2004年春、2人はお見合いで出会った。「慎重で熟慮の人」という公彦さんと、「思い立ったらすぐ動くタイプ」の友美さん。互いに居心地の良さを感じ、1カ月ほどで婚約し結婚。すぐに授かった長女の真紀子ちゃんは出生後、染色体異常が原因の病気「18トリソミー」と分かり、医師からは「1歳まで生きられるのは1割程度」と告げられた。
真紀子ちゃんは誕生から約1カ月半後に退院。自宅での生活は気を抜けず、「笑顔どころかふらふらだった」と友美さんは言う。夜、真紀子ちゃんが寝るときは、気管が狭くならないよう体の向きに注意し、安定して寝静まるまでそばで見守った。3時間ごとの授乳は搾乳してパックに詰め、鼻につながれたチューブから点滴で注入。器具の洗浄などもあり、なかなかまともに寝られなかった。
「生まれた当初は絶望感や不安は強かった」というものの、一緒に過ごす中で、その気持ちは徐々に変わっていった。真紀子ちゃんはしゃべったり歩いたりはできないが、体をくすぐられるときゃっきゃと笑い、自分の頭を自らトントン触って楽しそうにしていることもあった。同居する公彦さんの両親らも子育てを手助けしてくれ、家業の金物店を訪れる人たちも、店内に置かれたベッドなどにいる真紀子ちゃんを気にかけたり、かわいがってくれたりした。
亡くなったのは、5歳の誕生日を迎える直前のこと。食べられなくても毎年用意していた誕生日ケーキを、注文しようと思っていた日だった。妹もできてにぎやかな生活で、それまでいつもと変わらぬ元気な様子だったという。
「真紀ちゃんと過ごした経験を、何か役立てられないだろうか」。友美さんはそんなことを長らく考えていたという。数年前、東京で福祉事業を展開する会社が、放デイの経営者を募集していることを知り、すぐに手を挙げた。場所探しに苦慮しながらも、夫妻の思いに共感した専門職のスタッフらが次々と集まり、今年8月にオープンを迎えた。
施設では子どもたち一人一人に寄り添い、五感に働きかけることを大切にしている。職員とともにクッキングに挑戦する日もあれば、ギターやピアノの演奏を楽しむ時もある。
ここではまた、保護者たちが素直な思いを口にできるような、家族にとっても安心できる場になることを目指している。「大変だけれど、家族にとってはそれが日常。『うちもそうだったんだよね』と一緒におしゃべりしながら、次の力に変えていってもらえたら」。そんなことを願っている。【加藤沙波】
ばんの・きみひこ ともみ
名古屋市瑞穂区在住。登山やスキーが共通の趣味で、中学生の長男が一緒に楽しむこともある。放デイ運営に注力するため、3代続いた家業の金物店を昨年、事業譲渡した。放デイ「ジュガール守山」への問い合わせは(052・737・8302)。
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