多くの墓石が倒れたままになっている墓地で盆の墓参りをする被災者ら=石川県珠洲市宝立町で2024年8月13日午前9時21分、阿部弘賢撮影

 「真宗王国」と言われる石川県。先祖の墓や仏壇は大切に扱われ、地元の寺が地域コミュニティーのつながりに寄与してきた。しかし、元日の地震で被災者は生活再建がままならない中、墓などの修理は後回しにせざるを得ない状況だ。寺の関係者も「再建資金の提供をお願いできない」と悩みを深めている。

 「今年は夫の初盆なので、お参りができただけでもよかった」。盆入りした13日。同県珠洲市の墓地では地元の70代女性が、僧侶の読経が響く中、昨年病気で亡くなった夫の入る墓に手を合わせた。

 元日の能登半島地震では石川県内の多くの寺社も被害を受けた。珠洲市は震度6強を観測。夫の墓は運良く墓石の倒壊は免れたが、100基以上ある地区の共同墓地では、ほとんどの墓石が倒れたり、地割れなどで傾いたりした。地震後に営業を続ける市内の石材店は1軒しかなく、倒れたままの墓石や、雨が入らないようブルーシートをかぶせた墓が目立つ。

 墓の周囲を掃除していた別の70代女性は「また大きな地震が来て倒れるかもしれないし、仮設住宅を出た後の資金も必要。ご先祖さまには申し訳ないけれど、お墓はしばらく様子を見るつもり」と、ブルーシートで覆われた墓を見つめた。

 輪島市輪島崎町の浄明寺では、隣接地にある約500基の墓のうち8~9割が倒れたという。住職の崖(きし)啓互さん(75)によると、輪島では火葬後にお骨をいったん木製の「骨箱(こつばこ)」に入れ、納骨の際に骨箱から骨を出して直接墓に納める。墓の倒壊で中の骨がむき出しになった墓も多い。

 応急処置としてブルーシートをかけているという。業者不足で、墓石を引き上げる小型の重機が初めて入ったのは7月中旬ごろ。「倒れたままの状態は痛ましい」と嘆く。

 地震や津波の被害が大きかった同県珠洲市でも多くの寺が被災した。同市蛸島町の勝安寺は地震直後の倒壊は免れたものの、2月上旬に本殿が倒壊。庫裏や鐘突き堂、門なども全壊した。100基以上ある墓も全て倒れるなど被害を受けた。

 住職の梧(きり)光洋さん(75)は地区の区長会長も務め、地震直後から避難所の運営に当たってきた。被災者らの仮設住宅への引っ越しが一段落し、ようやく寺の仕事ができるようになったが、法要などの仕事は大きく減ったという。「平時なら(再建資金を)助けてくださいと言えても、今回は皆、被災していて生活が大変。とてもお願いできない」と悩む。

 地震を受けて廃寺を検討するところもあると言われているが、梧さんは「宗教法人で非課税だったのが、廃寺にすると土地などに固定資産税がかかってくる。それも簡単ではないだろう」と話す。

プレハブの仮設の寺を設置した往還寺の松下文映住職。中には仏具を置き、法要を営む場所も設けた=石川県珠洲市宝立町で2024年8月12日午後3時56分、阿部弘賢撮影

 同市宝立町鵜飼の往還(おうげん)寺も本堂などが全壊したが、住職の松下文映(ふみてる)さん(78)が、がれきの中から本尊や仏具などの一部を取り出し、傾いた自宅の2階で何とか法要を営んできた。寺の解体を終え、7月下旬には近くの更地にプレハブの仮設の寺を設置。8月10日にようやく電気も通った。松下さんは「『(仮設の寺に)お参りできて良かった』と言ってくれる門徒さんもいる。お盆直前になったが、ようやく区切りがついた」とほっとした様子を見せた。

プレハブで仮設の寺を設置した往還寺の松下文映住職=石川県珠洲市宝立町で2024年8月12日午後3時54分、阿部弘賢撮影

 ただ150軒ほどあった門徒のほとんどが地震で被災し、亡くなった人もいる。仏具や法衣、専門書なども多く失い、救出した本尊は修復に出した。「どんな形で寺を再建できるか分からないが、門徒さんの近くでやっていけたら」と話している。【阿部弘賢、国本ようこ】

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