能登半島地震について、前年度内に補正予算を付けなかったことをこれまでも本コラムで再三指摘してきた。
能登半島の復興の遅れに関しては、実際に現地で活動している人から発せられている。ネット上に「がれきも災害ごみもそのまま」などの投稿もあるように、東日本大震災など他の震災と比較して、復興作業の遅れを指摘する意見は多くみられる。
筆者は、復興の遅れについて、昨年度中に復興補正予算を出さなかったからだとみている。
1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災では、1兆223億円の補正予算が2月24日に閣議決定され、同月28日の国会で成立した。
2004年10月23日に発生した新潟県中越地震では、1兆3618億円の災害対策費などの補正予算が12月20日に閣議決定され、05年2月1日に国会で成立した。
11年3月11日に発生した東日本大震災では、4兆153億円の補正予算が4月22日に閣議決定され、5月2日に国会で成立した。
16年4月14、16日に発生した熊本地震では、7780億円の補正予算が5月13日に閣議決定され、同月17日国会で成立した。
そして18年9月6日に発生した北海道胆振東部地震では、他の豪雨災害などとともに9356億円の補正予算(うち地震への対応は1188億円)が10月15日に閣議決定され、11月7日に国会で成立した。
こうした過去の例をみると、大半が震災発生後、1カ月程度で災害対策費などの名目で補正予算が作られた。
今回の能登半島地震では、23年度予算の予備費から計2767億円支出するという対応だった。24年度予算の予備費からも追加支援を検討しているというが、予備費による対応は、手続きが煩瑣(はんさ)で、まとまった政府支出に不向きだ。
財務省はどうみているのか。4月9日に開かれた財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会では、能登半島地震の被災地の復旧・復興について、「将来の需要減少や維持管理コストも念頭に置き、住民の意向を踏まえ、十分な検討が必要だ」としている。
震災復興について、よりによって「コスト論」を持ち出したのかと、元財務官僚の筆者はあきれてしまった。被災地の多くが人口減少局面にあることも議論されたらしい。あえて極論を言えば、能登半島のような過疎地では、復興のための財政支出をムダだと財政当局は認識しているのではないかと邪推してしまいそうだ。
財政審での議論について、石川県の馳浩知事は11日の記者会見で「最初から『上から目線』でものを言われているようで、大変気分が悪い」などと述べ、不快感を示した。
ちなみに、馳知事は、1月10日の年頭記者会見で、能登半島地震からの復興のため政府に「数兆円規模の補正予算の編成を1カ月以内にお願いしたい」と述べていた。
(元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)
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