立秋は過ぎたが、まだまだ暑い日が続く日本列島。こんな時期にもっとも大変な仕事の一つといえば建設現場だろう。軽装になるのは安全上難しいうえ、炎天下の作業も多く、建設途中などの屋内にも空調設備は基本的にない。どうやって猛暑と向き合っているのか。埼玉県内の現場で、熱中症対策を取材した。
「15分に1回給水してください」。県東部で大和ハウス工業が施工する物流施設の建設現場。午後の作業前の「昼礼」で、現場監督が約300人の作業員に指示した。休憩は1時間に1回だが、こまめな給水で熱中症を防ぐ狙いだ。作業員の多くが小型ファン付きの空調服を着ている。
屋外の通路には、風を通しつつ遮光性能も高いネットが張られ、センサーが人を感知して熱中症に注意するよう呼びかけるアナウンスも流れてくる。スポーツドリンクを50円で売る自動販売機が設置され、詰め所や建設中の建物内にある休憩所には塩タブレットなどが置かれている。
さまざまな対策を講じるのは、熱中症が建設業界の大きな課題であるためだ。
厚生労働省によると、記録的な暑さとなった2023年の「職場での熱中症死傷者数」は、計1106人と前年より300人近く増加。建設業は全業種の中で2番目に多い209人(最多は製造業の231人)だったが、過去には最悪だった年も目立つ。大和ハウスが関わる全ての建設現場では、ピークだった18年以降、日よけや休憩所の設置などで年々減っていたが、ここ1、2年は減少ペースが落ちているという。
このため、同社では最近、従来の施策に加え「プレクーリング」と呼ぶ対策に力を入れている。作業開始前に体内の「深部体温」を下げて作業中の体温上昇を抑える厚労省推奨の取り組みだ。
取材した現場では、熱中症対策で協力する大塚製薬の「ポカリスエットアイススラリー」が昼の作業前に配られていた。アイススラリーは液体と細かい氷の混合物で、いわば「飲める氷」。通常の氷より体の内部を効率よく冷やせるという。
プレクーリングには体表面を冷やす方法もあり、その一つとして冷却ベスト着用も推奨されている。大和ハウスも熱を吸収する特殊な金属を利用したベストを開発、首の裏と両脇を冷やすタイプで空調服と併用すると特に効果を発揮するという。
働く人たちはどう感じているだろうか。
作業員の男性(60)によると、若い頃は休憩する風習があまりなく、暑い日でも2時間働き通すのが当たり前だったという。男性は「今は最低1時間ごと、特に暑い日はさらにこまめに休憩・水分補給をしています。元請けの指示もあり、休憩が取りやすい雰囲気が浸透してきたと感じています」と話す。
職場環境の改善に加え、作業する人たちの意識の変化もうかがえる。男性は睡眠や食事など自身の体調管理に加え、持参した塩昆布や乾燥梅を配りながら仲間の体調や顔色などを確認するようにしているという。
取材した建設現場は23年春着工で、夏を2回経験した。副責任者の三柴秀登さんは「完全にゼロではありませんが、300人の大所帯にもかかわらず(熱中症の)重症者は出ていません。現場で働く皆さんを含めたさまざまな取り組みの成果と感じています」と話している。【増田博樹】
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